“ひふみん”の愛称で親しまれ、22日に肺炎のため86歳で亡くなった将棋界のレジェンドで元名人、加藤一二三さんの告別式が28日、東京・聖イグナチオ教会で行われた。
告別式では、日刊スポーツ紙面でタイトル戦の対局などを振り返るコラム「ひふみんEYE(あい)」を担当した赤塚辰浩記者が弔辞を読み上げた。以下、弔辞全文。
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加藤先生、この持ち時間は何分ですか。25日に王将戦第2局が終わりましたが、日刊スポーツの将棋の記事の中に「ひふみんEYE」がないのが何とも不思議な気がします。
先生のご人徳とご尽力で、すっかり名物コラムとなった「ひふみんEYE」の電話取材の時、担当の私は、必ず先生に今日は持ち時間10分でお願いしますとか、15分でお願いしますと言ってから、質問を始めていました。もっとも、持ち時間なんてあってないようなもので、話が弾むとマシンガントークがさえわたって5分、10分のオーバーなどは当たり前。原稿を催促するデスクの視線と、締め切り時間さえなければ、ずっとお話をしていたかったです。
あの時間は何物にも代え難く、何より私が楽しかったんですから。タイトル戦でのトップ棋士の指し手や構想の善しあしから始まり、先生がかつて対戦された棋士の話、聖書の教え、人生経験に基づいた含蓄のある言葉が次々と出てきました。時には「その話は前にも聞いたよな」と思ったこともありましたけど、師匠たる先生のありがたいお言葉を、私は弟子になった気分で聞いていました。
お亡くなりになられた翌日の日本テレビの「DayDay.」では、先生と面識のある山里亮太さんが、「負けは財産ですという言葉をすごく覚えている」という内容のコメントをされていらっしゃいました。多くの人たちに伝えられた数々の人生訓がもう聞けなくなるかと思うと、さみしいとしか言いようがありません。
先生をしのんで25日に出演したフジテレビの「Mr.サンデー」で、私はあえてモスグリーン系のネクタイを締めました。覚えていらっしゃると思います。現役最後の対局の時、用意してあったモスグリーン系の座布団を、自ら青い座布団に替えられました。後で理由をお伺いしたら、「モスグリーンは平和の色、青は闘志をかきたてる色」とおっしゃっていました。召された今、平安をお祈りする意味であの色のネクタイを選んだことをお許しください。
向こうには大山康晴先生や升田幸三先生をはじめ、往年の名棋士が数多くいらっしゃいます。ぜひ、その対局の模様を「ひふみんEYE」で寄稿してください。あの独特の文字は、何とか解読できますから。
最後になりますが先生、2017年に初めてお会いしてからこれまでの間、誠にありがとうございました。この縁(えにし)は神様のお導きと、深く感謝申し上げます。そして、何よりも心安らかに。
2026年1月28日、日刊スポーツNEWS
文化社会部将棋担当・赤塚辰浩

