白い怪物が衝撃の2冠制覇を成し遂げた。単勝1番人気のゴールドシップ(牡、須貝)が残り1200メートルからの超ロングスパートを決め、単勝1・4倍の断然人気に応えた。皐月賞&菊花賞の2冠制覇は00年エアシャカール以来12年ぶり8頭目。鞍上の内田博幸騎手(42)が誕生したばかりの次男にささげる会心の騎乗を見せた。

   ◇   ◇   ◇

圧倒的な強さだ。単勝1・4倍の断然人気を背負った白い怪物が、17頭のライバルを力でねじ伏せた。12年ぶり8頭目となる皐月賞&菊花賞V。派手なガッツポーズも歓喜の雄たけびもない静かなゴールが、ゴールドシップの底知れぬ強さを浮き彫りにした。

衝撃のレースだった。後方2番手から、1200メートルもの超ロングスパートで2冠をもぎ取った。2周目向正面。坂の上りの手前で白い帽子が動く。“京都の坂はゆっくり上って、ゆっくり下れ”─セオリー破りの早仕掛けだが、内田は平然と言ってのけた。「普通にレースをしただけです」。

パートナーの持ち味は末脚の持久力とスタミナ。1枠1番から行き脚がつかなかった時点で、腹をくくった。「向正面までは内側で我慢して、早めに動いていこう」。ペースが落ちる坂の上りで4番手まで取り付くと、下りで脚を温存。直線入り口で満を持して再加速すると、もはや敵はいなかった。「強いゴールドシップを見せることができた」。計算通りに走り抜いた3000メートルに、ベテランは満足そうにうなずいた。

オールドファンには83年ミスターシービーをほうふつとさせる大まくり。菊花賞史に残る快騎乗は、馬を信じることから生まれた。「この馬は復帰して重賞、G1を勝たせてくれた馬だから」。今年1月、頸椎歯(けいついし)突起骨折の重傷を乗り越え約8カ月ぶりにターフ復帰。その後、初めて重賞を勝たせてくれたのがこの馬だ。その強さは身にしみて分かっている。「馬が強かった。自分を選んでくれた馬主、調教師、そしてゴールドシップに感謝したい」。ダービーは悔しい思いもしたが、これが恩返しの勝利。内田は丁寧に頭を下げた。

そしてもう1人。この喜びを伝えたい人がいる。誕生したばかりの次男だ。07年、長男が生まれた翌日には地方競馬通算3000勝を達成した。常に体を張って騎乗する内田にとって、家族は大きな支え。「長男の時もそうだった。まだ生まれたばかり。まだまだ最低15年は今ぐらい頑張らないと…」。最後は勝負師の顔から父親の顔に戻ると、少し恥ずかしそうにはにかんだ。【鈴木良一】

◆ゴールドシップ▽父 ステイゴールド▽母ポイントフラッグ(メジロマックイーン)▽牡3▽馬主 小林英一▽調教師 須貝尚介(栗東)▽生産者 出口牧場(北海道日高町)▽戦績 9戦6勝▽総収得賞金 4億3634万5000円▽主な勝ち鞍 12年共同通信杯(G3)皐月賞(G1)神戸新聞杯(G2)▽馬名の由来 黄金の船。父名より連想

(2012年10月22日付 日刊スポーツ紙面より)