どうだ! これが世界一の走りだ。現役世界最強馬イクイノックス(牡4、木村)が11年トーセンジョーダンの芝2000メートルの日本レコードを0秒9更新する1分55秒2で、史上3頭目の連覇を果たし、国内外G1・5連勝を成し遂げた。3番手から抜けだし、11年ぶりの天覧競馬を悠々と押し切った。鞍上のC・ルメール騎手(44)も連覇達成で秋盾5勝目。次走ジャパンC(G1、芝2400メートル、11月26日=東京)で3冠牝馬リバティアイランド(牝3、中内田)との初対決が待っている。

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「1分55秒2」。イクイノックスは強い。すごい。えぐい。表す言葉が、もう見つからない。ゴール直後、ルメール騎手の投げキッスに揺れたスタンドが「レコード」の赤文字に、もう1度沸き立った。鞍上は「信じられない。ジョッキーにとってドリームライド」と夢見心地。11年ぶりの天覧競馬を制し、ウイニングランの後は観戦された天皇皇后両陛下へ向け、馬上からヘルメットを脱いで最敬礼。「僕にとって大事なレースですから、勝って良かったです」と誇った。

感覚を狂わせるほど強かった。「オーバーペースじゃなくて普通のペース。時計を見てこんなに速いとはびっくりしました」。好発から3番手を確保。1000メートル通過57秒7の激流も馬なりで直線へ。残り400メートルすぎで前をパス。「ラスト200メートルでスクリーンを見ました。(後続に)3、4馬身あった。勝ったと思った」。ステッキ2発で加速し、後方待機の2着馬に2馬身半差。「彼は何でもできる。ジョッキーは簡単ですね」と称賛が止まらない。

ルメール騎手に水色地、赤の水玉模様の勝負服。と、くれば同馬主の国内外G1・9勝馬アーモンドアイの影が浮かぶ。普段は競馬の話をしない家族間でも話題に上がるほどの名牝。“家族”と称したこともある。「ロンジンワールドベストレースホースランキング」で1位の天才も「彼も家族になりました。自分の家族にとっても大事な馬になりました」と迎え入れた。“マッチレース”は絶対に実現しないが「2頭とも強い。同じレースで戦ったら…分からない。言えないです」と笑顔で夢をふくらませた。

次走は世界の強豪が集うジャパンC。最たる敵は3冠牝馬リバティアイランドだ。ルメール騎手は「最後の脚はめちゃくちゃ速い。勝つ自信はあるけど気を付けないといけない」と気を引き締める。完全無欠のスターホースは、どこまで突き抜けるのか。もう全く、想像がつかない。【桑原幹久】

◆獲得賞金 イクイノックスは天皇賞・秋を制し、海外を含む総獲得賞金を17億1158万2100円とし、オルフェーヴルを抜き歴代6位となった。次走ジャパンCを制すれば5億円を獲得(2着は2億円)。19億1526万3900円を稼いだアーモンドアイを抜き、歴代トップに立つ。また獲得賞金には換算されないが、3月にドバイシーマCを制したため、JCを勝つと褒賞金として200万ドル(約2億9000万円)が舞い込む。

■木村師「幸せ」

イクイノックスを管理する木村師は肩の荷を下ろした。開口一番「ほっとしました…」と5、6回うなずいた。3月のドバイでの快勝から世界一の座を維持。想像を絶する重圧も「きついですけど、どうにもこうにも幸せ。研ぎ澄まされて朝焼けを見ても、鳥のさえずりを見ても幸せ」と充実の日々を過ごす。天皇賞当日の早朝、厩舎へ出勤すると「日の出とともに虹が出てたんです。あんなの見たことないです」と吉兆も後押し。「ここに全てを持ってきたので、次があるとすればまたそこから向かっていきたい」と力を込めた。