調教師で、作家で、カメラマン? 小桧山師と話していると、この人はナニモノなんだろうと思わされます。「これ」。13日の朝、小桧山師が新たに書き上げた新刊をいただきました。「私の馬研究ノート1 蹄音の誘い」(ラトルズ)。ルーキー佐藤翔馬騎手との出会いから今に至るまでの話、競馬雑誌のコラムを再録したものなどが詰め込まれたエッセイが6日より発売されていています。
文章はもちろん、写真も全て自前です。大学時代に北海道の馬産地で撮ったもの、出先でシャッターを切ったもの…。全てのエピソードは実際に触れて、見て、感じたことです。たとえ数十年前のものであろうとも、写真を見れば五感を伴って記憶がよみがえるのだといいます。小桧山師は「昔はフィルムだったから、全部自分で現像していたんだ。今は全部ピントが合うけど、昔は手動だからね。見れば当時の思い出がぶわーっと出てくる。人間の記憶って、面白いもんだよね」と話してくれたことがあります。写真のブレも“味”。今のデジカメのように連写が利かないので、全部が一点物です。
深夜2時から明け方4時まで。毎日、調教開始前の2時間を執筆作業に充てる。そんな生活を送り、出版された本はもう10冊ほどになるでしょうか。小桧山師はいわゆる、本の虫です。来年2月の定年に備えて厩舎内の自室の整理を始めていますが、以前の部屋は全ての壁面が本で埋まっていました。「俺は頭が悪いから」。いっつも謙遜して言いますが、それは他者へのリスペクトが常に込められているからだと思っています。雑談をすれば、気付かぬうちに数十分が過ぎていることなんてざら。膨大な知識量と経験からくる話は、聞いていて飽きがきません。
これも師がよく言う言葉。「俺はいなくてもいいんだ」。理解ある馬主さん、信頼を置く厩舎スタッフがいるから、小桧山師が厩舎を留守にしようと業務が滞りなく進むのだといいます。「何かあったら責任は全部取るからのびのびやれって言ってる」。決して声を荒らげることない、穏やかな親分肌。こんな信念があるから、人はついてくるし、育ちます。小桧山厩舎出身の調教師は青木師、小手川師、堀内師。騎手は高野騎手、山田騎手(引退)、原騎手、佐藤騎手。“小桧山一門”は着々と競馬サークルに根を張っています。
小桧山師は21日に有馬記念の公開枠順抽選後のレセプションパーティーにて、JRA理事長特別表彰を受賞します。馬事文化の普及が認められた表彰は、背景にこうした人材育成があったからこそだと思います。受賞の内定を聞いた大学時代の後輩である国枝師は「コビさんにはかなわないな」と漏らしたといいます。先日、小桧山師は「栄ちゃん(国枝師=東京農工大時代の後輩)とかに比べて勝ち鞍だとか数字はたいしたことないけど、やってきたことが認めてもらえた、誇れるものができたと思っていいのかな」と電話口で話しくれました。厩舎解散まで、あと2カ月半ほど。いただいた本を読んで、またいろんな話を聞いて、どこかで紹介できればと思います。【松田直樹】

