夕方にX(旧ツイッター)をのぞくと「シーザリオ」がトレンドに挙がっていた。「ウマ娘」の新キャラクターとして発表されたらしい。

「便乗」と言われてしまうかもしれないが…これを機にあらためて名牝シーザリオについて振り返らせてもらいたい。現役時代を知っている方にも、知らない方にもご覧いただければ幸いだ。

「不思議な馬」

管理した角居勝彦元調教師(59)は、そう表現していた。ふだんは物静かな名伯楽も、彼女のことを語る時には冗舌だった気がする。

身体能力は抜群だった。故郷のノーザンファームには、生まれてすぐの頃に、牧柵にあった水飲み場に跳び乗って立っていたという“武勇伝”が語り継がれている。驚異のバネとバランスだ。

ただ、前脚の球節にある種子骨が弱く、エックス線で見ると骨に隙間があったという。だからデビューも2歳のクリスマスまで遅れた。デビュー後もしばしば脚が腫れたりむくんだりした。だが、レースが近づくと、なぜか腫れもむくみも治ってくる。

「気合で治すということなのか…。そんな馬は他に見たことがありません」

さらにゲートが開けば、人々の想像を超えたパフォーマンスを見せてくれた。デビュー半年足らずでオークスを勝ち、その1カ月半後にはアメリカンオークスを制覇。3歳夏までに日米G1勝利を果たしたのは空前絶後だ。

角居厩舎にとっては、ゆかりの深い血統となった。海外4カ国でG1を制した「世界のスミイ」にとって初の海外挑戦となったのがシーザリオの米国遠征。母となってからもエピファネイア、リオンディーズ、サートゥルナーリアの産駒3頭がG1馬となった。競走馬としても繁殖牝馬としても超一流。まさに真の名牝だ。

「繁殖入りしてからも気が強く、牧場では『女ボス』のような存在だったそうです。子供の共通点としては『強いこと』と『頭のいいこと』ではないでしょうか」

かかるイメージが強い血統だけに「頭がいい」という表現は意外に思う方もいらっしゃるかもしれない。だが、角居先生によれば「賢いからこそレースに集中しすぎてしまう」のだという。

最期も「不思議な縁」を感じさせた。21年2月27日に子宮周囲の動脈断裂による出血性ショックで急死。それは角居厩舎が解散する前日だった。「僕の引退に合わせて…」と言葉を失っていた。

その血は種牡馬となった3頭の息子たちをはじめ、これからも受け継がれていく。さらには「ウマ娘」としても再び脚光を浴びるに違いない。いつまでも忘れられない、そして忘れてほしくない名牝だ。【太田尚樹】