今年のコイのぼりは「新時代」の風を泳ぐことになる。平成最後の日本シリーズを戦ったホークスとカープ。新時代も同じ顔合わせでシリーズ対決ができるだろうか…。

イチロー引退で、開幕目前ながら、少しばかり心に穴が開いたような気持ちになった。深夜の引退会見。日米のレジェンドとなった男の言葉に聞き入った。日米通算4367安打の大金字塔より、試合出場なくチーム帯同した昨シーズン。「誰もできないかもしれない。少しだけ誇りを持てた」。28年間のプロ生活。イチローは野球を磨き続けながら、同時に野球でイチローを磨いてきたのだと思った。現役でいる限り、技術を高めるのは当然。下手ではプロは務まらない。だが、同時に自らを「磨く」ということをイチローは自然体でやってきたのだろう。「野球が目的ではないんです。あくまでも野球は手段。人間形成の手段なんです。(選手は)そうならんといかんのです」。イチローの会見を見ていてホークスの監督だった故根本陸夫氏の言葉を思い出した。根本さんは、この言葉を口癖のように言っていた。

イチロー現役最後の打席は遊ゴロだった。必死に一塁を駆け抜けたがアウトとなった。オリックス時代の95年。ホークスのある選手が試合前にイチローからバットをもらってきたことがあった。ベンチ裏で選手たちが興味津々に「安打製造器」のバットを手にしていた。主力のベテラン選手は「こんな軽いバット使っとったら現役短いで」と笑った。当時900グラム台が主流。イチローのバットは880グラムほどだった。三塁側ベンチに行ってイチローに聞いた。「鈴木君、どうしてバット軽いの?」。若きイチローは汗を拭いながら言った。「バットは重さじゃなく、しっかり振れることが大事です。僕は振ることを大切にしていますから」。最後のスイングに、24年前のイチローの言葉が重なった。【ソフトバンク担当 佐竹英治】