西武の2年連続リーグ優勝を裏方として支えた市川徹球団本部企画室室長(41)が、強化に成功した道筋を明かした。11月29日、都内で株式会社デルタが主催した「リーダーズオブベースボールオペレーション」で講演。17年10月に事業部から球団本部に異動後、次々に断行した球団改革の一端を披露した。

◆情報管理アプリ開発 選手が個々にiPad(アイパッド)でプレー動画を視聴できるようにした。それまではミーティングなどで、同じ映像を見ていたが、個々に必要な映像は異なる状況に対応した。

◆トラックマン活用 相手投手の分析は当然として、将来的にはけが予防、アマチュアのスカウティングにも役立てる意向だ。外国人のスカウティングには既に活用している。ちなみに榎田大樹投手は、自らの投球分析に利用。変化の量や方向から「ここが空いている」として、球種を1つ増やしたという。

市川氏はトラックマンデータを選手に直接伝えなかった。広池浩司氏(球団本部長補佐兼チーム戦略ディレクター兼メディカル・コンディショニングディレクター)や土肥義弘氏(編成グループ兼国際業務兼企画室)ら、元プロ野球選手を「仲介人」とした。市川氏自身も沼津東高(静岡)では野球部員で、早大でも硬式野球部に大学1年の途中まで在籍していた経験はある。だが、プロ野球選手にとっては素人同然にも見える。選手のプライドに配慮した、このへんの機微が、プロ球団のマネジメントには重要だ。

◆人材開発支援制度導入 トレーナーらが新たな知見を得るためのセミナー参加費用などを球団で支援するようにした。英語の通訳が新たにスペイン語を学ぶ際にも、費用を負担した。

◆管理栄養士導入 大学ラグビーで結果を残していた帝京大に相談。同大学から栄養士を派遣してもらうようになった。中村、栗山、秋山ら主力選手が強い関心を示したという。栄養管理だけが原因ではないが、今季は主力に故障が少なかったのは事実だ。

◆海外提携 メッツと業務提携し、今季で引退した大石達也氏を派遣する予定。オーストラリアのウインターリーグに選手を送っていたが、このオフは米シアトルの最先端トレーニング施設「ドライブライン・ベースボール」に変更した。

◆3軍制導入 広島の3軍から、球団OBでもある青木勇人3軍投手コーチを招いた。これまで故障中の選手は理学療法士などを相手に練習していたが、今後はコーチの指示を受けながらの練習が可能となる。

ここまでに示した例は球団改革の一部だが、市川氏が連覇に役立ったことは間違いないだろう。早大卒業後に北コロラド大大学院でスポーツマネジメントを学び、楽天-データスタジアム-西武(事業部)-阪神を経て、現職に就いたビジネスマン。西武の「山賊打線」という荒々しいニックネームの陰に、米国流の知見が垣間見えた。【斎藤直樹】