観客のいないスタジアムに、雄たけびが響く。気迫の投球を見せるオリックス榊原翼投手(21)だった。

「自然と、ですね。気持ちを入れて投げると、思いっきりガッツポーズが出るんです」

イニングごとに、3つ目のアウトを取ると「バチン!」とグラブをたたく。無観客試合の今、その音が心地よい。

16年育成ドラフト2位。18年シーズン開幕直前に支配下選手登録され、背番号は2桁の「61」となった。昨季にプロ初勝利を含む3勝をマーク。20年も期待の星だった。

宮崎での春季キャンプも1軍発進。エース山岡のキャッチボール相手を務めたり、投内連係ではチームをもり立てる声を出すなど、順調に進んでいた。

ただ、順風満帆にはいかなかった。実戦が始まると、自分の思うようなボールが投げられなかった。結果も出ない。「うまく下半身が使えてなかったんだと思います。フォームがバラバラになってしまって、本来の投げ方も分からなくなっていたんです」。投球時に上体が上ずったり、リリース位置にばらつきがあったりと苦しんだ。

オープン戦が始まると2軍落ちを告げられた。「また、ここからですね。しっかり前を向いてやっていくしか自分にはないので…。下は向きたくない。出直しですね」。いつになく表情は険しかった。

同期入団の山岡、山本は先発ローテーションに入った。「あの2人は本当に別格ですよ。山岡さんは、いつも面倒を見てくれて、まねしたいこともたくさんある。(山本)由伸は…。同級生ですけど、次元が違います」。そう話すが、榊原の力を込めた直球も一級品だ。

開幕から1週間で、エース山岡が離脱。榊原には7月3日西武戦(メットライフドーム)で山岡の代役として今季初登板初先発のチャンスが巡ってきた。「山岡さんから『頑張れ』と声を掛けていただいた。自分の持ち味である真っすぐで逃げずに勝負します」。結果は5回5安打1失点。今季初白星はお預けとなったが、ガッツポーズを4度見せるなど、粘り強く、気迫のこもった投球でナインを鼓舞した。「(自粛期間で)なるべく力まない投球フォームにしました」。頭は冷静でも、自然と雄たけびをあげる。「燃える男」の復活が、オリックスの鍵となる。【オリックス担当=真柴健】