10日の中日-阪神(バンテリンドーム)でベテラン審判によるファイン・ジャッジがあった。
1点を追う阪神の8回の攻撃。無死一塁から福島圭音外野手(24)が二盗を試みた。ヘッドスライディングで、微妙なタイミングになったが判定はアウト。試合の流れにかかわる重要シーンだ。福島はセーフをアピールし、ベンチも迷わずリクエストを行った。
ビジョンにさまざまな角度の映像が流れたが、記者がいくら見ても確信を持てない、まさに1センチの勝負だった。NPBのリプレーセンターの担当者も難儀しただろう。審判団は当初のジャッジを支持した。
二塁審判の秋村謙宏審判員(60)は至近距離からその瞬間をしっかり目視。思い切り右腕を振り下ろした。実はセオリーとは違い、ポジショニングを外野側にとっていた。
「今はベースの前に出てタッチする選手が多いので、内側からだと見づらい時がある。後ろからだと見やすいんですよね」
昨年、野手がブラインドになって納得のいくジャッジができなかったことがあったという。「どうにかならないか」と悩み、今年から二盗に備える際は外野側で構え、外野側からジャッジしている。メジャーリーグでは主流になりつつあり、NPBでも一部の審判が実行しているが、秋村氏は「ちょっとチャレンジしています」と、28年目にして初めてだという。
めまぐるしく変わる野球に、審判も対応を迫られる。今年は拡大ベース導入という転換期となった。昨年までも二盗のシーンで走者は外野側の角をめがけて滑り込んできたが、ベースが大きくなり、その傾向は強まった。
さらに、拡大ベースではヘッドスライディングの有効性も証明されつつあり、今後増えそうな気配を見せている。小さい「指先」の勝負となるだけに、より細かい解像度が必要になる。それも踏まえての思い切った決断だった。ここまでは「見えやすいですね」と好感触だそうだ。
ただし、プレーは生もの。送球がどこに来るか、走者がどう滑り込むかは誰にも分からない。正解はない、と打ち明ける。
「どうしても全部が見えるポジションってないんです。中の方が見やすい時もあるでしょう。今のトレンドとか、ベースのことを含めて、確率で言うと、今のところ外でいいかな、という感じですかね」
秋村氏は元プロ野球選手。広島、日本ハムで計173試合に登板した、ばりばりの中継ぎ投手だった。引退後すぐ審判に転身し、33歳と遅くに「再デビュー」を果たした。60歳でのチャレンジを目の当たりにして、これまで積み重ねてきた努力が少し想像できた。
ところで、福島の盗塁のジャッジ。実際はどれくらい見えていたんですか?
「立場上、見えたと言わないといけませんね(笑い)。よく見えました。本当に。本当に一瞬のことですが、手が先に着いたようには見えなかったので『アウト』としました」
物腰の柔らかいベテランが優しい笑みを浮かべた。【阪神担当=柏原誠】




