記者には「忘れられない味」がある。時に孤独に、時にワイワイと、あらゆる場所で、あらゆるシチュエーションで食する味は、取材の思い出として記憶と味覚に刻まれる。「忘れられない味 Season4」を、ご賞味あれ。
■景珍楼 牛バラ肉かけご飯
もはや、おなじみの光景になってきた。
「いつもの、お願いします」
「はーい」
横浜スタジアムから徒歩で1分ほど。夏なら日差しを浴びながら汗がにじみはじめたところで、中華街の外れにある「景珍楼」に着く。入り口近くに飾られた食品サンプルの数々に食欲をそそられながら入店。いつもの中国出身の女性店員さんが、ニンマリ笑う。気を使いすぎるわけでもなく、とはいえ丁寧で、絶妙にゆるーい接客の距離感が心地よい。「お好きな席どうぞ~」。入り口右側のテーブル席が定位置だ。
メニューはもう見ない。「今日もいつもの!」と言えば、知ってましたと言わんばかりに「あいよ~」と返事。あうんの呼吸で絶品の「牛バラ肉かけご飯」にありつける。ご飯にうまみがたっぷり詰まったあんに、牛バラ肉の角煮がゴロッとしている。ちょっとカレー風味もあってくせになる。米との相性も抜群で、何度食べてもやみつきになる。おなかがすいていたら、ご飯は大盛り。軽くペロリと食べきれてしまう。
「いつもの」が通じるようになったのは6月くらいだったか。毎回のようにメニューを見ずに「牛バラ肉かけご飯」を頼み続けていたら、覚えられた。お互いに絶妙な距離感ができて、さらに居心地が良くなった気がした。
1度、お店にタオルを忘れてしまったことがあった。数日後、タオルを忘れたこと自体を忘れて入店したら、顔を見てすぐに「タオル忘れてましたよね。持ってきますよ~」と教えてくれた。ありがたい。この記事を書くにあたって、なぜここまで覚えてくれたのか、聞いてみた。店員さんは中国出身で日本語は上手ではないため、グーグル翻訳を介して。「いつものように来てくれるから、自然と覚えちゃいました」。シンプルにうれしい。
今季がDeNA担当1年目。“横浜グルメ”は楽しみの1つだった。日々の生活に彩りを持たせるために、ご飯に妥協はしたくない。担当が決まった時から食べログで有名店を調べ、行きたい店リストを作った。「いつもの」で通じるお店を作ること、そして毎日のように行っても飽きないおいしいお店を見つけるのは、小さな目標だった。ハマスタ寄りの中華街のお店を何店か巡り、さまざまなメニューを試した結果、たどり着いたのが「景珍楼」の「牛バラ肉かけご飯」だった。毎試合前、おなかを満たして気を引き締める。幸せなルーティンになった。
■Vなら 超特大フカヒレ
「食」が人とのつながりになり得ると、たびたび感じることがある。コロナ禍で始まった日刊スポーツ野球部によるSNS企画「#孤独な記者メシ」。球場メシやグルメなどを上記のハッシュタグと写真とともに投稿し続けてきた(コロナ禍が明けて“孤独”じゃないときもあるけれど)。
日々の練習の動画や裏側の動画以上に「#孤独な記者メシ」には反響が大きいと日々感じる。選手に「今日の、おいしそうでしたね」と言われたり、記者仲間に「あれどこの?」と聞かれたり、家族や友達に「いつも食べ過ぎ」とイジられたり、担当の美容師さんに「ああいう企画、良いです」と褒めていただいたり。結局、みんな「食」が大好きなんだなと思う。
「#孤独な記者メシ」の流れから、ハマスタ周辺のおすすめを聞かれたら毎回、「景珍楼」の「牛バラ肉かけご飯」とメニューまで指定してオススメしている。昨季まで務めた巨人担当時代からお世話になっている大勢の母いずみさんに聞かれた時も、迷わず返信。即日、訪れてくれたようで「おいしかったです」と言われた時は、自分のことのようにうれしかった。「食」を通じて、つながっている気がした。
国籍関係なく温かく接してくれる店員さんに感謝しながら「いつもの」おいしさを堪能し、「ごちそうさまでした!」と店を出る。また今日も頑張ろう。そんな思いを胸にハマスタへ向かった、この1年。いつかDeNAが優勝したら、ずっと気になっていた1万9800円の超特大フカヒレも食べてみよう。【小早川宗一郎】





