「おいっ!」。DeNA伊藤光捕手(35)は、上茶谷大河投手(28)のヒーローインタビューでの強烈な“ボケ”にロッカールームのモニター越しに突っ込んだ。22年9月9日の阪神戦(横浜)。インタビュアーから、初回に捕手の伊藤からマウンドで掛けられた言葉を聞かれた上茶谷が言った。

「おい、お前、しばくぞ!」

スタンドは爆笑に包まれ、ロッカールームでは「ひかさん、そんなことを言ったんですか?」とチームメートから聞かれた。「そんなこと言ってないよ!マジであいつやばいって(笑い)」と頭をかいた。上茶谷の爆笑お立ち台はネット、SNSを通じ、一瞬で拡散された。

22年9月、阪神に勝利しお立ち台でタオルを掲げる左からDeNA牧、楠本、上茶谷
22年9月、阪神に勝利しお立ち台でタオルを掲げる左からDeNA牧、楠本、上茶谷

“ネタ振り”は、お立ち台の直前、上茶谷の言葉から感じ取った。「ひかさんのおかげなんで、いいコメントを言ってきます」と宣言された。伊藤は「いや、そんなん別にいいから」と遠慮したが、その数分後、目に飛び込んできたのは想像をはるかに超える“ボケ”だった。

気になる事の真相について、伊藤は「もし、本当に言われてたら、お立ち台とかでは絶対に言わないですよね」と笑いながら、あの日の声掛けまでを時系列で振り返った。「実はめちゃめちゃ良くて、今日はいいぞっていう感じだったんです」と最初に明かしたのは、試合前のブルペンでの状態の良さだった。

それが、試合が始まった途端に制球が乱れた。1回、先頭の中野を四球で歩かせ、2番糸原へも2球連続でボール。引っかける時が悪い時の傾向だったが、この日は左打者の外角高めにボールが抜けた。マウンドに駆け寄ると「やばいです、やばいです」と焦る上茶谷に言葉を掛けた。

「打たれてもいいから、まずはストライクを投げて勝負していこう。この3カ月間ファームで頑張ってきて、せっかくこのチャンスをもらったのにもったいないやろ」

激励の言葉とともに、投球を分析した上で修正するためのプランも伝えた。「ミーティングとはちょっと変わってしまうけど、左打者の近め、内角にカットボールを投げ込んでいこう」。当初は外角を軸とした配球プランだったが、ボールの抜けを修正するために得意のカットボールを内に突っ込むことに変えた。

1回に2失点したが、2回以降は修正し、5回2失点で約5カ月ぶりの3勝目を挙げた。当初のプランを変更し、白星に導いた伊藤は「僕としては、上茶谷というピッチャーを生かすために、試合に勝つために必要な判断だったと思うんで。そこにしっかりと根拠というか、説明できるように準備はしてました」と回想した。

あの日、お立ち台からロッカールームに戻った上茶谷に「お前、そんなこと言ってないやろ」と一応は追及したが、うれしそうな後輩の表情を見て、全てを受け入れた。「本人もホッとしたのかなって。結構熱い男なんで、3カ月ぶりの1軍登板で気持ちも入ってましたし、本当に勝って良かったなと思った」と勝利の喜びを共有した。

2年の時を経て、伊藤は笑みを浮かべながら、上茶谷の“ボケ”を思い返した。「ファンの方も彼のキャラを知ってますし、面白い上茶谷が出たんじゃないかなと思います」。上茶谷は12月9日に行われた現役ドラフトでソフトバンクへの移籍が決まった。「かわいい後輩ですし、頑張ってほしいなと思います」とエールを送った。【久保賢吾】(この項おわり)