1月下旬から約1カ月にわたって掲載してきた2004年(平16)の「球界再編問題」。最終回はストライキ直前の9月8日、緊迫する臨時オーナー会議を振り返った上で、次代の野球界が目指していくものに迫る。

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プロ野球史に残る「球界再編」は、過去に対する反省の1年でもあった。人気ばかりか、ドラフト、FAなどのシステムまでも巨人に依存していたツケが浮き彫りになった。

巨人、オリックス、西武、ロッテなど、経営者が水面下で仕組んだ「1リーグ構想」が崩れ、セ・パ12球団は維持された。ただ9月18、19日に決行された史上初のストライキは、少なからずファンを失望させた。

近鉄・オリックスの合併、新規参入を巡った労使協議・交渉委員会が決裂。ストライキを前にしたオーナー会議は緊迫した。密室でのやりとりを、取材メモをもとに一部再録する(オーナー名は当時)。

オーナー会議議長・滝鼻卓雄(巨人) ご意見をうかがいたい。

白井文吾(中日) ストライキを強引にやると(球界は)衰退しかねない。(合併)承認の先延ばしが賢明だ。

堀澄也(ヤクルト) 賛成する。

宮内義彦(オリックス) 経営と選手会との話を分けるべきだ。可決しないとオーナー会議の権威が疑問となる。

久万俊二郎(阪神) 運命共同体。ファンの反感を計算しているのか。どれだけの損害になるのか…。自分たちの痛みを選手会に説明すべきだ。

堤義明(西武) パ・リーグの窮状が、セ・リーグには理解されにくいのかもしれない。セから巨人を抜いた形と考えてほしい。

重光昭夫(ロッテ) うちは選手を全力で説得したい。

中内正(ダイエー) パ・リーグは家族と考えている。ストはむなしすぎる。

白井 2リーグ堅持の方向性を打ち出すのは?

堤 もし(パ・リーグが)4になったらどうするか。セ・リーグからひとつパに来ていただいて、5と5にするか…。

松田元(広島) もう結論を出すべきだ。

「プロ野球はだれのものか?」が問われた。1リーグに執着した経営陣は、世論の反発で逆風にさらされた。コミッショナーの指導力にも疑問が残った。

未曽有の1年は、楽天の新規参入、ソフトバンク誕生で一応の決着をみた。構造改革の結論として、交流戦、クライマックスシリーズが導入された。

球界再編から十数年が経過した。しかし、平成が終わろうとする今も課題は多く、決して立ち止まってはいられない。

「地域密着」「底辺拡大」「国際化」は3大テーマだ。小さいパイの取り合いで利益を優先すると「文化的公共財」(野球協約第3条)の理念が揺らぐ。同協約で野球は「不朽の国技」とうたわれている。金もうけの追求は企業のエゴを指摘される。まず社会貢献が前提にある。

各球団の集客力はアップしているが、野球人口減少に歯止めをかけるまでには至っていない。球界参入に強い興味を示す複数企業とエクスパンションへのビジョンも必要だろう。「アジア戦略」「マイナーリーグ」も検討に値する。

今回の取材の結びに王貞治(ソフトバンク球団会長)は「球界はもっと変わっていくだろう。だが、野球は変わらない」と言った。

時代が変わっても、野球が永遠であるために英知を絞りたい。予断を許さない情勢に変わりはない。(敬称略=この項おわり)【寺尾博和】