元ロッテの里崎智也氏(野球評論家)の「ウェブ特別評論」を掲載中。49回目は「メジャー二刀流実現へ大谷はどうしたいのか」です。

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 日本野球機構(NPB)と米大リーグ機構(MLB)、大リーグ選手会で続いていた新ポスティングシステム交渉が22日に合意した。

 大リーグ球団が日本球団に支払う譲渡金の上限は、今オフに限り従来通りの2000万ドル(約23億)。大谷が所属する日本ハムの申請期間は12月2日から同23日(米国時間の1~22日)まで。従来の30日間より短いため、MLB30球団は、日本ハムがポスティング申請を行う前までの期間で契約交渉はできないが、大谷へ文書によるプレゼンテーションを行うことが可能となった。

 大リーグ側も超目玉選手と認識していると報じられ、大谷の移籍先が決まらない限り、他のFA選手との交渉も進められないため、大リーグ選手会側が、大谷の早期決着を要望し、21日間の交渉期間でまとまったようだ。 

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 11日にメジャー挑戦を表明した会見で大谷は「継続してきたものをさらに伸ばしたい。どこかひとつをあきらめるのは今の時点では考えていない」とコメントし、投打二刀流への挑戦意欲をあらためて示した。

 通常30日の交渉期間が21日に短縮された。ほかのFA選手の移籍交渉に影響をおよぼすのではないかと見られているという報道をみても、大谷人気は相当だ。

 二刀流がメジャーでも通用するのか、個人的な興味も、期待も大きい。しかし、大谷はもう少し自分が二刀流でこうやりたいという青写真をはっきり示したほうがいいのではないかと思う。

 獲得意思のあるメジャー球団も大谷の希望に即したプランを出せるか否かが、はっきり分かる。文書によるプレゼンテーション1つにしても、オファー希望の球団は、より具体性をもたせた、詰めた内容になるのではないかと思われ、双方にとってムダがない。

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 ご存じの通りア・リーグは指名打者制を採用、ナ・リーグは同制度を基本的に採用していない。かつてボストン・レッドソックスに在籍したデービッド・オルティズのように強烈な打棒を誇るDH選手が存在するア・リーグの球団では、大谷の二刀流のチャンスは減ることが予想される。

 大谷が二刀流として野手、あるいはDHで試合に出場する、しないで出番が左右される選手もいる。実力社会で結果を残せば雑音は出ないが、メジャー1年目の来季、実績のない大谷に最初から周りの選手が「VIP待遇」をどこまで許すか疑問だ。

 日本ハムでは大谷の二刀流を実現させるために、登板間隔や球数など、ケガをしないよう最大限の配慮で、大谷の夢をアシストしてもらった。

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 二刀流の青写真を1つシミュレーションしてみる。メジャーでは投手、野手合わせてベンチ入りは25人。先発5人で中4日登板が基本線だ。

【ケース】

日月 火  水  木  金 土

休◎(1)(2)(3)(4)◎

 二重丸が大谷の登板日と仮定する。ア・リーグなら登板翌日の(1)は疲労回復、(4)は登板前日調整となれば、(2)と(3)で野手大谷の出場が可能か。メジャーのレギュラーシーズンは日本より19試合多い162試合。さらにポストシーズンも試合数は多い。化け物級のタフガイでないと体がもたない。

 DH制のないナ・リーグの場合。二重丸の登板日は必然的に打席に立てるため、◎が二刀流、(1)~(4)が体のメンテナンスに充てられるとあり、話に現実味が出てくるかと思う。

 メジャーで日本ハム同様に面倒見のいい球団だといいが、まずは自分がどうしたいかをはっきりさせることが大事だと思う。

 例えば、ア・リーグなら登板日以外の4日間で(2)と(3)はDHで打席に立てるとか、(2)と(3)のいずれか1日限定の野手フル出場が可能だとか。

 メジャーはシーズン中の休みが来季から4日増えるとの報道を見た。そうなれば、投手陣の台所事情にも若干の余裕が出てくると予想される。球数制限も100球メドではなく80球、イニングなら先発で5回投げ切ってくれればOKといった球団が現れ、日本ばりに先発6人ローテを採用となれば、大谷の二刀流にとっても追い風となる。

 文書によるプレゼンテーションにも、そういった先発6人制などの「二刀流支援プラン」を盛り込んでくる球団があるかも知れないが、「オレはこうしたい」と具体的な意思を示したほうが、自分の理想型により近づけると思うのだが、どうだろう。

 日本ハムで培った経験で、二刀流で体に負荷の掛かる度合いは自分がよく分かっているのだから。

 ◆里崎智也(さとざき・ともや)1976年(昭51)5月20日、徳島県生まれ。鳴門工(現鳴門渦潮)-帝京大を経て98年にロッテを逆指名しドラフト2位で入団。06年第1回WBCでは優勝した王ジャパンの正捕手として活躍。08年北京五輪出場。06、07年ベストナインとゴールデングラブ賞。オールスター出場7度。05、09年盗塁阻止率リーグ1位。2014年のシーズン限りで引退。実働15年で通算1089試合、3476打数890安打(打率2割5分6厘)、108本塁打、458打点。現役時代は175センチ、94キロ。右投げ右打ち。