韓国で行われていたU18ワールドカップ(W杯)で、野球の原風景に出合えた。日韓関係が悪化するさなか、野球がある空間は完全な別世界だった。

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釜山郊外にある機張(キジャン)郡は緑に囲まれた牧歌的なロケーション。風の向きによって、磯の香りも漂う。どこか懐かしさも感じられる場所だった。

四つ葉のクローバーのように4面が向き合う球場のうち練習場になるソフトボール場は、出場国が使っていない時は出入り自由。本球場のブルペンも同じ。地元の子どもが代わる代わるマウンドから投げては、跳びはねて喜ぶ。怒られるどころか、WBSCの関係者が球審役をやって、甘めに「ストライク!」。勝手にノックを打ち、ベースランニングまでしている。

日本でこういう光景はあまり見なくなった。近所で壁当てをしていれば「うるさい」。公園の隅っこでキャッチボールしても「危ない」。都市部ではいつのまにか、野球に親しめる環境は消えてしまった。

ホテルのフロントでバットを手に会話する南アフリカ、帰りの空港でキャッチボールをしたカナダの選手にも驚かされた。国旗を背負って勝負に来ているのに、日本以上に野球に親しんでいるように見えた。

小雨の中、ぬれながら試合を見ていると、後ろからすっと傘を差してくれた韓国人男性がいた。反射的にボディーバッグを胸の前に回した自分を恥じた。「ニホン、イイチーム」と日本語で話しかけてきた。「ありがとう」と答えた。

日本投手のブルペン投球は地元民に人気だった。西の迫力あるフォームに「マツザカ!」と言った韓国人記者がいた。日本スタッフの捕手を見て「フルタ?」(古田って捕手が昔いたよねというニュアンス)と言う一般人もいた。ミーハーだけど、色眼鏡なしでいい選手を物色している。みんな野球が好きだ。

決勝後の閉会式。ベストナインの奥川恭伸は韓国人選手に次々と記念撮影をせがまれた。気持ちよく韓国で2週間を過ごし、名残惜しく離れることができたのが、何よりだった。【柏原誠】