阪神対巨人 9回表巨人、俳優の渡辺謙(上段中央)は交代を告げる矢野監督をスタンドから見つめる(撮影・加藤哉)
阪神対巨人 9回表巨人、俳優の渡辺謙(上段中央)は交代を告げる矢野監督をスタンドから見つめる(撮影・加藤哉)

巨人に勝てない。今月最初に東京ドームで3連敗。そして平成最後の「伝統の一戦」と意気込んだ甲子園でも3連敗だ。しかも平成の甲子園での対戦はこれがラスト。そこでの完敗だ。戦力差は確かにある。それでも…。甲子園に詰め掛けた虎党にはやり切れない思いが充満していた。

そんなファンの思いを代弁したのが渡辺謙だった。「世界のケン・ワタナベ」。ハリウッドでも活躍、日本を代表する俳優だ。そして大の虎党であることを隠さない。

渡辺 言葉にならないですね。もうミニ・キャンプでも張った方がええんちゃいますか。こんなに打てないチームがエラーしてたらしゃれにならないでしょう。また見に来ますから。それまでになんとか復調していてほしい。

キャップを目深にかぶり、サングラスをかけ、甲子園のネット裏で2試合続けて観戦した。前日は0-2。この日は0-3の敗戦。悔しさをグッとこらえ、足早に帰途に就こうとした。だが虎番記者たちに感想を聞かれると、つい、思いを口にしてしまった。新潟出身なのになぜか流ちょうに話せる関西弁で。

以前にはこんな話もしていた。「ボクは掛布さんの引退試合を見たんです。その日がダブルヘッダーだったのを知らずナイターからの観戦でしたけど。掛布さんは四球だけだったけどね」。思い出を語る目はキラキラしていた。

掛布の引退試合は88年10月10日。甲子園での阪神-ヤクルト戦だ。NHK大河ドラマ「独眼竜政宗」(87年)でスターダムにのし上がった渡辺は当時から阪神を応援していた。今でも日本にいるときは時間をつくる。今回も来週にはニューヨークへ飛ぶ忙しさの中での観戦だった。

そんな思いで見るには厳しい試合だ。前日あいさつした際に「勝ったら話しますよ」とあの笑顔を見せていた。だが完敗。試合後はこんなことを言って帰っていった。「何もないですよ。明日も来るから。明日、勝ってね。良いことが言えるように」。

しかし生観戦の2試合で悔しい連敗。この日も黙って甲子園を後にしようとしたが思いを隠せず、言葉を発してしまった。その気持ちは分かる。常に人であふれる甲子園だが、その1試合しか足を運べないファンもいるのだ。

それでも渡辺は虎党を辞めない。どんな屈辱的な負けを見せられても突き放せないのがファンだ。怒り、嘆き、悲しみ、それでも応援する。阪神に限ったことではないが“熱さ”では、やはり虎党は突出しているのかもしれない。そんな思いに応えてほしい。なんとか。(敬称略)

阪神対巨人 3連勝し気勢を上げる巨人ファンと対照的に家路を急ぐ阪神ファン(撮影・加藤哉)
阪神対巨人 3連勝し気勢を上げる巨人ファンと対照的に家路を急ぐ阪神ファン(撮影・加藤哉)