「まだまだチームの状態を上げていかないとダメだと思う。この交流戦を何かのきっかけにしたい。全員で戦う」。

交流戦を前に指揮官・矢野燿大はこんな談話を発表していた。申し訳ないけれど少し違うのでは…と思ったものだ。交流戦は「きっかけ」ではなく「ラストチャンス」である。

阪神で虎党を喜ばせ、楽天で自身初の日本一に輝いた闘将・星野仙一は夢を追う人だったが同時に現実主義の側面も持っていた。「シーズンは130試合か。でもな、最後まで分からんなんてことはないんや。100試合ぐらいでペナントの行方なんて決まっとるわ」。03年にそう聞いた。

常にそうとは限らないが、そういうものと思って臨まなければならないのは当然だ。その意味で今季の阪神は苦しい。このままなら最下位から脱出できるかどうかが焦点だろう。

当然、矢野に対する風当たりは強い。しかし就任以来、昨季まで3年連続でAクラスに導いたのも事実だ。最後の4年目もせめて3位に入り、クライマックスシリーズまで進出してほしいと本音で思っている。

そのために最初で最後のチャンスが交流戦だ。セパ両リーグの対戦。自軍が勝ってもよそが勝っていれば何も変わらないし、自軍だけ勝つようなことがあれば、この上なく、おいしい。15年には一時「セ・リーグ全球団借金」という状況になったほどリーグ戦とは違う状況が生まれる。ここで白星を積み重ねれば浮上の機会は生まれるはずだ。

星野は交流戦の戦法について「自分たちの戦いをすることだ」と言っていた。いまの阪神にとって、それは何か。間違いなくこの日のようなゲームだろう。少ないチャンスで得点し、安定した投手力で逃げ切る。

その意味でも大きい勝利だ。相変わらず打線は活発ではないが不思議なもので田中将大なら気にならない。ビッグネームを前に「そらな…」と思うだけだ。だからこそ盗塁が効いた。ヒーローは西勇輝、大山悠輔だったけれど2安打に加え、2個の盗塁を決めた中野拓夢の仕事はとてつもなく大きかった。

過去の交流戦で阪神が勝ち越しているのは楽天、ロッテの2球団だけ。くしくもその2つを相手に始まる今季だ。ラストチャンス-というには長い3週間かもしれないが、まずは、この6試合。虎党をうんざりさせたまま終わらないためにもここが正念場である。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)

阪神対楽天 楽天に勝利しガッツポーズを見せる矢野監督(撮影・加藤哉)
阪神対楽天 楽天に勝利しガッツポーズを見せる矢野監督(撮影・加藤哉)
阪神対楽天 楽天に勝利し、トラッキー(右)とグータッチを交わす矢野監督(撮影・岩下翔太)
阪神対楽天 楽天に勝利し、トラッキー(右)とグータッチを交わす矢野監督(撮影・岩下翔太)
阪神対楽天 6回裏阪神2死一塁、大山の時、中野は二盗を決める。左は遊撃手小深田(撮影・上山淳一)
阪神対楽天 6回裏阪神2死一塁、大山の時、中野は二盗を決める。左は遊撃手小深田(撮影・上山淳一)