西武対ソフトバンク 先発し力投するソフトバンク大竹(撮影・鈴木正人)
西武対ソフトバンク 先発し力投するソフトバンク大竹(撮影・鈴木正人)

 育成から支配下登録となったばかりのソフトバンク・ルーキー大竹耕太郎投手(23)が1日、西武戦でプロ入り初先発初勝利を飾った。

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 「僕と同じように、強い気持ちを持って取り組んでいる育成選手の気持ちも背負って頑張りたい」

 ソフトバンク育成4位の大竹耕太郎が29日、支配下選手に登録された。ファームで先発、中継ぎとして22試合8勝0敗、防御率1・87と活躍。期限が2日後に迫った支配下登録を勝ち取り、背番号133が念願の2ケタ「10」に変わった。「球威を上げるためにいままで取り組んできた。技巧派と言われますが、ストレートに自信を持っています。球速以上に速く見えるストレートで活躍できる投手になりたい」。新人とは思えぬマウンドさばきで、うれしいプロ初登板初勝利をつかんだ。

 「球威」へのこだわり。7月上旬、大竹と高校時代の話をしたとき「最近、球を速くすることばかりに一生懸命になっている高校生が多すぎますよね」という話になった。プロを目指すためには150キロを投げなければいけない。高校球児の中に、そんなイメージがあるからかもしれない。大竹も始めはそうだった、しかし「スピードではなく、キレが大事。キレがあれば球が遅くても抑えられるんです」。そう断言する。

 大竹は熊本・済々黌のエースとして高2夏、高3春に甲子園出場。2年夏の3回戦では、のちに春夏連覇を果たす大阪桐蔭と対戦した。2-6で敗れたがスローボールなどで6三振を奪う投球術が話題となり、公立進学校が強豪私学を倒すヒントとしても称賛された。最速130キロ中盤の直球と、変化球で空振りをとる姿に、当時の「熱闘甲子園」のキャスター工藤公康氏(現ソフトバンク監督)が「負けたけど投げる姿がよかった」とコメントした。大竹はこの一言を勇気にかえ、その後、早大でも活躍した。スピードにこだわらない投球で2年春は大学日本一に貢献し、胴上げ投手となった。

 「速い球はいらない。球威、キレで抑える」。

 自分の考えに強く共感してくれたのが、ソフトバンク久保康生2軍投手コーチだった。久保コーチは、踏み台を使って投球フォームの強化や、長い棒を使って横振りにならない身体の使い方などを指導してくれた。練習が実を結び、力を抜いて投げても、球威のある球が投げられるようになってきた。

 今春キャンプで130キロ台だった球速は「自然と」143キロにアップした。球威の根拠となる球の回転数を測ったところ、ストレートで約19回転。早大の先輩和田毅の20~22回転に迫る好数字を記録した。数字が示す通り、思い描く「球速以上に速く見せるストレート」が完成しつつある。

 高校時代、大竹のコンディショニングを担当した小山征二さん(45)は「大竹君の魅力は身体の柔らかさです。高校時代は筋トレはやらず、自重トレやストレッチばかりやっていました。その効果で身長も7センチ伸び、手足の長さも武器になりました」と進化を説明する。そして「ダイヤの原石。化石に近い原石でしたけれどプロ野球選手になれた。こういうピッチャーでも活躍できるんだ、というところを見せられれば、野球少年たちの希望になるし、ケガの予防にもつながる。大竹君はそこまでを考えて、野球をやっていると思いますよ」と続けた。

 大竹がモットーとしている言葉がある。それは「柔よく剛を制す」だ。高校時代は球が遅く、182センチ、68キロと細身だったこともあり、ドラフト候補になれなかった。育成の星として、いや、“遅球”の星として。大竹は、自分にしかできない挑戦を続けながら、似たタイプの投手に向けて、マウンドからメッセージを送り続けていく。【樫本ゆき】

「筋肉つきました。プロになって初めて本格的な筋トレをしています」。腕の筋肉を見せながら笑うソフトバンク・大竹耕太郎投手
「筋肉つきました。プロになって初めて本格的な筋トレをしています」。腕の筋肉を見せながら笑うソフトバンク・大竹耕太郎投手
第94回全国高校野球選手権大会2回戦 済々黌対鳴門 済々黌の大竹耕太郎は鳴門打線を1失点に抑え完投勝利(2012年8月13日撮影)
第94回全国高校野球選手権大会2回戦 済々黌対鳴門 済々黌の大竹耕太郎は鳴門打線を1失点に抑え完投勝利(2012年8月13日撮影)
東京6大学野球春季リーグ 法大対早大 先発の早大・大竹耕太郎(2016年4月30日撮影)
東京6大学野球春季リーグ 法大対早大 先発の早大・大竹耕太郎(2016年4月30日撮影)