12年連続15度目出場の聖光学院(福島)が報徳学園(東兵庫)に2-3で競り負け、15年以来の初戦敗退を喫した。エース右腕の衛藤慎也(3年)が最速を2キロ更新する146キロを記録するなど、9回9安打4奪三振3失点と好投も、プロ注目の小園海斗内野手(3年)には3安打3得点と完敗。今春センバツ後に右肘を再手術してつかんだ復活登板で、仲間の思いも背負って全力を尽くした男同士の勝負を終え、笑顔で甲子園を去った。

 衛藤は悔し涙を左手でぬぐった。小園との真剣勝負を1球1球思い出すうちに、笑顔に変わった。「今までやってきた中で一番次元が違ったし、楽しかった。小園1人にやられた感じ。今までで一番良い投球ができたので、悔いはない」。仲間と一緒に野球ができない寂しさを感じつつ、充実感もあった。

 1回表先頭。最初の勝負で、自己最速146キロの直球を左前に痛打された。わずかな隙を突かれて一気に二塁へ。犠打後、3番打者の遊ゴロの間に生還を許し、わずか9球で先制点を奪われた。1-1で迎えた3回表の第2打席では追い込みながらも、得意のスライダーを右中間に運ばれ二塁打。スライダーを狙われていると察して、2回以降はチェンジアップも多投するなど工夫しても、簡単にはね返された。「走塁も良いし、イメージ以上のことをしてくるチーム。一枚上だった」と認めた。

 2人は同じ兵庫県生まれ。中3時にバッティングセンターで初遭遇した。「自分は知っているけれど、向こうは知らない。かってに憧れている存在でした」。130キロの直球と変化球をミックスさせたマシンを楽々と打ち返す姿に、開いた口がふさがらなかった。高校入学後に捕手から投手に転向。「投手をやることになって甲子園で戦ってみたかった相手。初戦で当たれてうれしかったけれど…」と苦笑いも浮かべた。

 意地は見せた。5回2死走者なしの第3打席。2-2からの7球目は渾身(こんしん)の146キロ外角ストレート。空振り三振に、小さくガッツポーズしながら、三塁側ベンチに全力疾走した。「人生最高の投球だったと思います」。この時ばかりは悔し涙を流す仲間の中で、1人だけ白い歯を見せた。

 同点に追いついた8回表、142キロ直球をまたも右中間へ二塁打を運ばれた。三塁カバーに入ると、二塁塁上で涼しげな顔を見せる強敵に、笑うしかなかった。今春センバツで右肘疲労骨折が再発。3月29日に再手術し、全力投球の解禁は6月中旬。「ケガの間に仲間の支えをあらためて感じた。代表して1番を背負った責任で投げました」。上石智也(3年)や高坂右京(3年)ら不在中に投手陣を支えた仲間も、試合中に感動で目を潤ませたほど、完全復活マウンドだった。

 斎藤智也監督(55)も「十分にゲームをつくった。代える理由はなかった。100点でいい」と大絶賛。衛藤は「大学に進学して野球をやって、自分がどう成長できるか楽しみ。また小園と対決する機会があれば、絶対に負けたくない」。完調で野球をする喜びを知ったエースは、まだまだ進化の途中だ。【鎌田直秀】