水次祥子の「MLB 書かなかった取材ノート」

大物代理人は「取り戻さなければ」MLB開幕いつに

MLBが今月いっぱいをめどに今季開催プランの作成に取り組んでいる。目標は7月初旬の開幕だというが、果たしてどうなるか。

スコット・ボラス氏(2019年1月3日撮影)
スコット・ボラス氏(2019年1月3日撮影)

大物代理人スコット・ボラス氏(67)は、5日付ニューヨーク・タイムズ紙の論説欄に「我々は野球を取り戻さなければならない」のタイトルで、早期開催の必要性を説くコラムを寄稿していた。その中で、2001年9月11日の米同時多発テロを振り返り「世界貿易センターのツインタワーが崩れた日から10日後、ニューヨークで最初に行われた試合で、マイク・ピアザが8回に放った本塁打は、沈みきった我々の心を癒やしてくれるのはこれなのだと感じさせる、大きな1打になった」とつづっている。

筆者はその試合を球場の記者席で見ていたので、よく覚えている。メッツの旧本拠地であるシェイスタジアムで行われたブレーブス戦。ピアザが3番、新庄剛志が5番を打っていた。ピアザがその特大逆転2ランを放った瞬間、フェンスの向こうへ吸い込まれていった打球はスローモーションのように見え、総立ちの観客の喝采は、ドラマチックなBGMのように聞こえた。球場全体が1つの、劇的な空間になっていた。

MLBも米国政府も、コロナ禍の中で、これを求めているのだと思う。野球が作り出す熱い一体感や胸がすくような爽快感。新型コロナウイルスのパンデミックで大きなダメージを受けた社会全体に癒やしと、希望、活力を与える。

ただ感染拡大が完全に終息しない中での開催には、解決しなければならない多くの課題がある。6日付のロサンゼルス・タイムズ電子版によると、MLBは開幕を必要最低限のスタッフで無観客でスタートする予定だが、球団はこの「最低限」のスタッフ選びに頭を悩ませているという。ドジャースとエンゼルスの場合は医療スタッフ10~12人、用具担当者とクラブハウス従業員4~5人、ビデオ担当者2人、遠征トラベル担当、フロント職員数人と、計算すると選手、監督、コーチを含めて約100人になる。さらに無観客とはいえ、球場には適切な人数の警備員が必要。審判とボールボーイもいる。

またスコアボード担当者、グラウンド整備員、球場音響担当はどうなるのか、メディアの取材対応をどうするかなど、大所帯のMLBで、どのように必要最低限に人員を絞るかは悩ましい。米国では選手らが日常的にPCR検査を受けられる環境を整えてから開幕する構想のようだが、スタッフも含めるとなれば、相当数の検査キットが必要となるため、検査許容数によって制限人数も変わる。米政府やCDC(疾病対策センター)と打ち合わせながらスタッフの陣容を決めるだけでも大変な作業。今現在の理想は7月上旬の開幕だが、そこへこぎつけるまでにはいくつものハードルがありそうだ。【水次祥子】(ニッカンスポーツ・コム/MLBコラム「書かなかった取材ノート」)

◆水次祥子(みずつぎ・しょうこ) ニューヨーク大学でジャーナリズムを学び、現在もニューヨークを拠点に取材。03年4月8日、ヤンキースタジアムでの松井秀喜ホームデビュー戦満塁弾など球史に残る場面に多数遭遇。最新刊『野茂英雄から20年「メジャー記者の取材ノート」心に残る選手たちの言葉。』(電子書籍・ゴマブックス)

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