メジャーの「サイン盗み疑惑」が深刻な事態となっている。昨年11月、敏腕記者の告発に端を発して調査が始まり、アストロズ、レッドソックス、メッツが監督を解任。「クロ」が確定したア軍には、500万ドル(約5億5000万円)という罰金が科された。収束の気配を見せず、長いメジャーの歴史でも類を見ないスキャンダルに発展している。ここまでの経緯を整理する。

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米国内での反響は思った以上に大きかった。電子機器を利用したサイン盗み問題で、レッドソックスが14日(日本時間15日)、アレックス・コーラ監督(44)を解任したことを発表した。アストロズのA・J・ヒンチ監督(45)、ルノーGMの解任に続き、米球界に連日の衝撃が走った。

コーラ監督解任の翌日、記者の携帯電話に、米国人の友人からコーラ氏を皮肉るメッセージが次々と届いた。内容は伏せるが、久しく連絡をとっていなかった友人から突然、今回のスキャンダルについて感情移入した文面が届いたことには驚いた。米国ロサンゼルスの地元テレビ局のニュースでも度々、報道されるなど、野球ファンに限らず注目度が高かったようだ。

コーラ氏の解任は、17年にアストロズでベンチコーチを務めていた際にサイン盗みの主導的な役割を担っていたとするもので、レ軍の監督を務めた18年シーズンについては、同様の違反が行われていたかどうか現在も調査中だという。MLB公式サイトによれば、レ軍が下した今回の監督解任の結論は、調査中の疑惑とは関連していないとしている。

18年、レッドソックスは5年ぶり9度目のワールドシリーズ制覇を果たした。投手では左腕クリス・セール、デービッド・プライス、打者ではムーキー・ベッツ、J・D・マルティネスらを擁し、投打にバランスのとれた戦力でワールドチャンピオンに輝いた。ドジャースを相手に4勝1敗。圧倒的な強さだった。

コーラ氏はプエルトリコ出身の監督としては初の快挙を成し遂げた。投打に秀でた選手たちをまとめ、適材適所で起用。初球からエンドランを仕掛けるなど、積極的な采配も光った。データに頼りすぎない戦術にもたけていただけに、今回の結末が残念でならない。【斎藤庸裕=20年1月16日、ニッカンスポーツ・コム/MLBコラム「ノブ斎藤のfrom U.S.A」】

<スキャンダル経緯> 

▽19年11月12日 米スポーツメディア「ジ・アスレチック」のケン・ローゼンタール記者が、アストロズのサイン盗みを暴く記事を掲載。15~17年にア軍に所属したファイアーズ投手(現アスレチックス)が本拠地球場のセンターに設置したカメラで相手捕手のサインを盗んでいたことを実名で告白。コーラ前レッドソックス監督らも関与と伝えた。

▽同14日 MLBがサイン盗み疑惑についてアストロズを調査すると発表。

▽20年1月7日 ローゼンタール記者が、今度はレッドソックスが18年にいかにサイン盗みのシステムを構築したか暴露する記事を発表し、MLBがレッドソックスも調査開始。

▽同13日 MLBが9ページに及ぶア軍調査結果を発表し、ヒンチ監督とルノーGMの1年間職務停止、500万ドルの罰金、ドラフト1、2巡目指名権2年間剥奪を発表。

▽同13日 ア軍オーナーがMLBの処分発表を受け、ヒンチ監督とルノーGMの解任を発表。

▽同14日 レッドソックスがア軍コーチ時代にサイン盗みを主導したコーラ監督の解任を発表。

▽同16日 メッツがア軍の選手時代にサイン盗みを主導したベルトラン新監督の辞任を発表。球団の説得によるもので、事実上の解任だった。