平和の象徴、白いハトのように自由に大空を飛んだ。阪神福留孝介外野手(38)が1回の先制2ランで快勝の風を運んできた。7月11日巨人戦以来の16号は、阪神移籍後初の「初回ホームラン」。原爆投下から70年目の8・6ヒロシマで勝利を収め、長期ロードの初カードを勝ち越しは2年ぶり。首位巨人に0・5ゲーム差と食らいついた。
特別な雰囲気に包まれた広島の空へ打球は舞い上がった。プレーボール直後、1死二塁と最初のチャンスをものにした。福留が広島薮田の変化球をひと振りした。先制の16号2ラン。前半戦MVPに選ばれた3番打者にとって、約1カ月ぶりの1発だった。
「若い投手が投げているし、初回に点が取れてよかった。状態は良くはない。ただ、良くないけど、打てなくても、守ったり(四球で)歩いたりをしっかりやりながら戻していければ」
8月に入り、ここまで14打数3安打…。猛虎打線を引っ張ってきた男が止まった。酷暑の屋外連戦、38歳の体が悲鳴をあげているのは明らかだった。この日の試合前、いつもは欠かさない守備練習を取りやめた。汗びっしょりになりながら憔悴(しょうすい)した表情でロッカーへと消えた。
ただ、そんな中でも最高のプレーを見せる“使命感”を胸に抱いていた。「8・6」-。広島の地から発せられる平和への願いは、福留も同じだった。
「野球ができるという幸せを感じてやらないといけない。俺たちは戦争を知らないけど、どういうことがあったかを聞かされている。それを伝えていかないといけないしね」
少年時代、父とともに原爆ドームを目の当たりにした。地元・鹿児島の知覧にある「特攻平和会館」にも足を運んだ。戦争さえなければ、野球を思い切りやれたであろう青年たちが戦闘機に乗って命を投げ出した。バットを握りたくても、握れなかった、その無念…。幼い頃の記憶が今、ずっしりと重みを増してよみがえる。だからこそ、どんなに苦しくても「幸せだ」と口にできる。どんなに状態が悪くても、精いっぱいの準備をして試合に臨む。この日、練習開始前には炎天下に鳥谷とともに真っ先に出てきて、黙々とランニングしていた。
もがいていた福留の決勝本塁打で試練の長期ロード最初のカードを勝ち越すことができた。走りだしそうな気配のあった巨人に再び0・5ゲーム差。野球ができる幸せを胸に、福留と猛虎が戦後70年目の夏を駆け抜ける。【鈴木忠平】
▼阪神の長期ロード初カード勝ち越し発進は、13年巨人戦○●○以来、和田監督の就任した12年以降では2年ぶり2度目となる。初年度12年は広島戦●●●、昨季14年はヤクルト戦○●●だった。
▼福留の本塁打は、この試合の先制打。今季全16本塁打中、殊勲本塁打は10本目(内訳は先制4、同点3、サヨナラ・逆転・勝ち越し各1)。これは24本塁打している山田(ヤクルト)と並びセ・リーグ最多。
▼福留が1回に本塁打を放ったのは、13年の阪神移籍後初。中日在籍時の07年4月21日ヤクルト戦(神宮)で、藤井から3ランを放って以来。なおメジャー5年間では全42本塁打中、イニング別最多の9本塁打を1回に放っている。



