1点差でも勝ちは勝ちだ。9安打8四死球で3点止まりと打線の梅雨明けは遠そうだが、先発能見からマテオ、球児、ドリスのリレーが決まり、逃げ切りで3連敗と最下位転落を免れた。いやなムードがプンプン漂う8回裏、3番手藤川球児がビシエド、ナニータ、堂上と3奪三振。首位広島と11ゲーム差のビハインドも関係ないと、火の玉ストレートに魂を込めた。

 薄氷を踏む思いでつかんだ白星だが、ナゴヤドームの駐車場で球児は胸を張っていた。バスに引き揚げる直前だ。借金7を背負い、首位広島とは11ゲーム差。苦しい現状を問われても、顔色一つ変えずに口を開いた。

 「全然、関係ない。自分たちのやるべきことをやるだけ。できないこともあるかもしれないけど、常に前向きにやっていくだけ」

 プロに入って18年目になる。逆境にさらされても、楽観もせず、悲観もしない。ただ、目の前にある1球に無心で執念を燃やすだけだ。幾多の修羅場を乗り越えてきた男のポリシーがにじむ。だから、心臓をわしづかみにされるような窮地でも堂々と振る舞えるのだろう。

 わずか1点リードの8回。中日は大砲ビシエドからの攻撃だ。わずかに手元が狂えばスタンドに放り込まれる。金本監督が危うい局面で起用したのが経験豊富な球児だ。長距離砲相手に2球ボールが先行した。それでも、まるで動じない。キレのある速球で追い込み、カウントを整える。6球目だ。148キロ速球を高めに投げ、助っ人に空を切らせた。この日2安打のナニータもフォークを駆使して、速球で空振り三振を奪う。福田に死球を与えたが、堂上はバットも当てられない。豪快な3者空振り三振で、相手の士気を断ち切った。特筆すべきは高めの速球でファウルや空振りを奪えた点だ。球威を取り戻している証拠だろう。思うように得点を重ねられず、リリーバーに託すしかなかった金本監督も言う。

 「今日は後ろの3人。投手の勝利。ストレートでバンバン空振りをとったね。休養十分だったと思うけど、安心して見ていられた」

 藤川が泰然自若で振る舞えるのは理由がある。勝負事は何が起こるか分からない。9年前の夏、常識破りの起用に応えていた。07年は首位巨人に最大12ゲーム差をつけられたが、8月30日広島戦から10連投で10連勝。2勝7セーブと奮闘し、一時は奇跡的な首位に押し上げた立役者なのだ。まだ7月だ。「また、明日があるから」。そう言い残してバスに消えた。夜が明ければ朝が来る。日々の積み重ねで、ここまでやって来た。希望を失うには、まだ早すぎる。【酒井俊作】