19年、タイガースは優勝しました! 阪神矢野燿大監督(50)が「予祝」の考えで最下位からの下克上を狙う。オープン戦で下位に低迷しても、指揮官のプラス思考は揺るがなかった。阪神担当の酒井俊作キャップが「未来の手紙」でその姿勢の源を明かした。

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拝啓 師走の候、矢野監督、今季の優勝、おめでとうございました。19年10月2日広島戦。甲子園で胴上げされた一戦は1点を追う8回に大山選手が31号逆転2ランを放ち、先発藤浪投手が完投の11勝目で飾りました。若手が伸びて、息詰まる混セを制しました。

昨季は最下位で、開幕前の下馬評は決して高くありませんでした。それでも監督の思いは揺るぎません。2月上旬、沖縄・宜野座キャンプ中でした。ある食事会で乾杯の音頭に立つと、壇上で「2019年、タイガースは優勝しました!」とあいさつしました。むろん、シーズンは始まっていなかった。唐突な口上に一瞬、場は静まり返りましたが、あれこそが強い意志の表れだったと感じました。

監督は明かしたものでした。「アレな、予祝っていうんや」。就任直後の昨年11月。高知・安芸での秋季キャンプ中も球場で雑談中、教えてくれました。「フィギュアスケートの羽生選手ってソチオリンピック(五輪)のとき、行きの飛行機で金メダルとるのを思い浮かべてたらしい」。リンクに立つ前からジャンプに成功する光景などをイメージして、涙を流していたともいいます。

祝福をあらかじめ予定して「前祝い」する。春の花見も、その1つだそうですね。桜を稲穂に見立て秋の豊作を前もって祝う。もしかすると、日本人に自然と息づく心なのかもしれません。監督は徹底していました。3月の激励会。スピーチのなかで話しましたね。「日本シリーズにもちろん出ますから、10月まで野球をやっていますけど…」。予祝し、既成事実かのように言い切っていました。

3月中旬、取材者として申し訳ない思いになったことがあります。囲み取材は常にプラス思考でした。それなのに私が昨季、甲子園で大苦戦したことを問うと珍しく「それは知らんよ。皆さんが、そういうふうに俺らを植えつけるだけ。だって、去年のことを考えても、俺ら仕方ない」と感情を出しました。昨年の不振を直視しつつ、もう前向きになっていた。水を差す雑念だったなと感じました。

チーム内に浸透していった思いでしょう。3月には『前祝いの法則』(ひすいこたろう・大嶋啓介共著、フォレスト出版)を選手に配ったと聞きました。鳥谷選手は「自分も結構ああいう本は読んでいて、うまくいった時、思い返せばやっていたなと思いましたね」と実感していましたし、スタッフも「ビールかけの準備をしないと」と話したほどです。強敵ひしめく長丁場の戦いは苦闘の連続でしたが、ナインが「楽しむ」姿勢を忘れなかった結果でしょう。この前祝いレターが、奮闘の痕跡をわずかでも刻めたならば、本当に幸いです。      敬具