恩返しの1発は、少し切なかった。DeNA伊藤光捕手(30)は狙いすました。2回1死、オリックス山本に2球で追い込まれるも「積極的に打っていこうと決めていました」と心は揺らがない。3球目、外角低めの122キロカーブを思い切りしばき上げた。打球はDeNAファンの待つ左中間スタンドへ。難敵を打ち砕いてダイヤモンドを1周すると、座り慣れた京セラドームの一塁側でなく三塁側で喜びを爆発させた。

複雑な心境が集中力につながった。昨年7月にトレードでオリックスから加入。08年から在籍し、選手会長まで務めたチームとの初対戦に「変な感じはありました。三塁側というのは不思議な感じ」と振り返った。オリックスファンから大きな拍手で出迎えられた第1打席で放った、5号ソロ。「10年間オリックスで支えてもらって、今がある。横浜での活躍が恩返しになる。ここで一生懸命やろうと思いました」と感謝と決別の1発だった。

18・44メートルの距離で、後輩の成長を実感した。攻略した山本は今やエース級。オリックス在籍当時は寮生だった右腕と交わした言葉は少ないが、1軍の試合日には誰よりも早く球場で準備する姿を見つめていた。「若いのに、練習前に来て準備をする。こういうヤツが活躍するんだ」。バッテリーとしてではなく、打席で向き合った相手に「いい投手だった」とかみしめた。

お立ち台では「頑張ることでしか恩返しができない。1日1日、1球1球頑張ります」と話し、両球団のファンから声援を受けた。オリックスの“DNA”を胸に、交流戦を駆け抜ける。【島根純】