ソフトバンクを支える人々にスポットを当て、随時掲載する「支えタカとよ」。第14回はヤフオクドームにある世界最大規模のビジョン演出を担当する伊嶋慎一郎ホークスビジョンディレクター(40)です。

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松田宣が打った! スタンドに入るか、入らないのか-。球場中の視線が打球に集まるその瞬間、ネット裏の1室で、伊嶋さんだけは人と違うところを見ている。「審判のジャッジを確認しています。雰囲気で映像を出してしまうわけにはいかない」。的確に、素早く、約18人のチームに指示を送り、画面全体に広がる「HOMERUN」の文字や「熱男!」の映像などビジョンや音声を次々と切り替える。「いいコンテンツがあっても、間が悪いと台無しになってしまう」。本塁打になったあとも、集中の糸は切らさない。「テレビ中継にビジョンが映っている間に、ビジョンの映像が切り替わるとかっこわるい」。当たり前のように、自然に。スタンドの興奮が最高潮に達する裏で、緻密な計算が繰り広げられていた。

5枚の大型ビジョンからなる「ホークスビジョン」は昨オフに改修され、世界最大を誇る。伊嶋さんは昨年シーズン中から演出システムの移行に携わっていた。だが、実際に使うCMなど映像が出そろうのは公式戦に入ってから。「3・29」開幕戦がほとんどぶっつけ本番だった。「不安でしょうがなかった。いっぱいいっぱいで、気がつけば試合が終わっていた。なんとか事故なくやれました」。運用システム自体が新しくなるため、0からのリスタート。新しい演出が増えるだけでなく、従来の演出も実は、再び一から組み直している。演出チームがようやく作業に慣れてきたのは5月上旬だったという。表に出ない、長く入念な準備を経てリニューアルを無事に着地させた。

伊嶋さんにとって、今季一と言える演出がある。明石がサヨナラ弾を打ち、バック宙でホームインした4月25日オリックス戦だ。ヒーローインタビュー後、明石がベンチに下がる直前に急きょ、本塁打からバック宙までのリプレー映像を流した。試合終了からのわずかな時間に段取りの変更を決め、映像を編集。もちろんリハーサルなどできない。それでも「不安より、やらなきゃダメでしょという感じでした」。一発勝負の中で、失敗のリスクよりも質を選び、最高の余韻を作り上げた。

伊嶋さんは平和台時代からのホークスファン。06年に今の仕事に携わるまでは、福岡ドームにもファンとして通った。野球を愛し、ホークスを愛するからこそ、仕事にもこだわる。球場に居合わせた誰もの心に残るような、かけがえない思い出作りをひっそりと、さりげなく手助けしている。【山本大地】