侍ジャパン稲葉篤紀監督(47)が東京オリンピック予選でジャイアントキリングを目撃した。

イタリアでの欧州・アフリカ予選2日目の19日(日本時間20日)、イスラエルが8-1で優勝候補のオランダに圧勝。直前の欧州選手権で大敗を喫した相手にリベンジした。2戦全勝とし、20日(同21日)のイタリア戦に勝てば、東京五輪出場に大きく前進する。

試合終了後、稲葉監督は勝者と敗者が入り交じるイタリア地方都市のグラウンドを静かに見つめた。「来る前はオランダ、イタリアが有力だと思っていたが、イスラエルが強かった」。勝者は五輪通算5度の出場を誇る欧州の雄オランダではなかった。主要国際大会出場歴は17年WBCだけ。五輪予選も初挑戦のイスラエルが勝ちどきを上げた。

終始、圧倒した。初回、4番リケルスが豪快に先制2ランを左翼席にたたき込んだ。

リケルス 試合前にバレンシアと話した。(オランダ先発の)マークウェルは甘いゾーンに来るので、変化球を追い掛けることはないと。直前に追い掛けてしまったので、助言に立ち返り、次の球を本塁打にできた。メジャー経験豊富な男がチームにいるのは素晴らしいことだ。

感謝を向けられた3番の35歳主砲は随一の実績を誇る。メジャー通算9年で打率2割6分8厘、96本塁打、397打点。11年にツインズで154試合で2割4分6厘、15本塁打、72打点とブレークした。建山投手コーチもレンジャーズ時代の同年に対戦。3打数無安打に抑えたが「シーズン70打点ぐらい挙げた、いい打者だった」と戦いの記憶を引っ張り出せるほどの印象があった。

バレンシアは2回に自ら左中間フェンス直撃の適時二塁打を放つなど、2安打1打点で8得点の打線の中枢を担った。稲葉監督も「3、4番はパワーがあり、いいコンタクトをしていた。警戒しなければいけない」と評した。

勝つ野球のツボも押さえていた。投手陣は4人で小刻みに継投。右腕、左腕、右サイド、右腕とタイプの違う投手でつないだ。「4人で四球が1つ。勝ちゲームの中でいい投球をしていた」と制球力に感心した。さらに内野守備では遊撃手を二塁手の位置に、二塁手を一、二塁間の深いところに置く場面もあった。データに基づく、最先端のシフトを大胆に配し、洗練された野球を展開した。

11日の欧州選手権のリーグ戦での対戦では4-13と完敗。同選手権も4位で今大会に歩を進めた。ホルツ監督は「オランダに勝ったことは大きいが、目の前の試合に勝つだけ。明日の試合(イタリア戦)はもっと大事になる」と冷静だった。一方で東京五輪への大志は抱いている。「まだ道のりは長いが最終ゴールは東京だ。五輪に出られれば、すべてとは言えないが、今日の多くのメンバーは入るだろう」とチームの基軸を置いている。

日本のプロ参加後の対戦は17年WBCの1度だけ。8-3で展開的にも快勝だったが、欧州の新鋭は着実に力をつけている。ホルツ監督は「野球人口は子供も含めて1000人。この数字の中で、できる限りの高いレベルの野球を目指している」とプライドをのぞかせた。

開催国の日本以外では伏兵が世界最速で東京五輪出場を決める勢いだ。稲葉監督は言った。「だからこそイタリアに来て、見られて良かった」。往復2万キロの旅の先に五輪本番に生きるジャイキリを見た。(パルマ=広重竜太郎)