日刊スポーツの名物編集委員、寺尾博和が幅広く語るコラム「寺尾で候」を随時お届けします。

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プロ野球が“正月”といわれるキャンプインを迎えた。17シーズン優勝から遠ざかる阪神は、岡田彰布が“再登板”。フロントの最高責任者も交代し、新体制でスタートを切った。

阪急阪神ホールディングス(HD)社長の杉山健博が、阪神球団のオーナーに就任。阪急出身者が球団オーナーになるのは初めての人事だ。今シーズンは「フロント-現場」の両トップが代わる転換期になった。

そのいきさつを阪急阪神HD会長でグループCEO角和夫が、ためらうことなく打ち明けた。24日、「岡田監督就任激励会」に出席した京都の夜。公の前で阪神を熱っぽく語った角に遭遇したのは初めてだった。

角は監督が岡田に至った経緯を説明したが、その中身は「現場」と「フロント」に分けてテーマを授けたと受け止めた。現場トップの岡田に託したのは、選手、指導者ら人材の発掘だ。

「後輩を育成してもらう。岡田監督の信念をもたれた指揮、こういうものを選手が見習うラストチャンスという思いがありましたので、少しこういう形をとらせていただきました」

グループトップが求めたのは、監督として毅然(きぜん)とし、プロフェッショナルらしいピリッとした雰囲気だろう。それはリーダーとして、厳しくチームをけん引してほしい心境からくるのかもしれない。

杉山のオーナー起用について、角は「少し空気を変えたい」とも打ち明けた。自身は甲子園球場を年に1、2度視察する程度でも、宝塚歌劇とともにエンターテインメント事業の核である球団情報をつぶさにキャッチしている。

あるHD幹部は、岡田に白羽の矢を立てた際、監督経験者のOBであるにもかかわらず、本人と通じ合っていないフロントには強い不信感を覚えたという。今回は早速、杉山が岡田と会食し、沖縄キャンプ視察にも意欲的のようだ。

しかも角は「そんなに長期間、ずっと杉山オーナーがいることには、おそらくならない」とも発言している。現在、杉山はグループ中核の阪急阪神不動産の会長職にある。球団トップと兼務が継続されるかは、今後の焦点だろう。

角が「監督にのびのび采配を振っていただきたい」と語ったように、“オカダシフト”が敷かれた。ここからチーム強化とともに、球団のチェックが行われることが予想される。

角は公共性の高い鉄道事業者らしく「優勝するにこしたことはないが、それを強調するのでなく、タイガースファン、沿線のファンの皆様に恩返しをチャンスと思っている」と締めくくった。阪急、阪神がHDとして経営統合されて以来、いまだ優勝には届いていない。18年ぶりの頂点へ。冬の京都にしんしんと雪が降り続いた。「老兵として、最後のご奉公」とまで言い切る総帥が、本気になった。(敬称略)