日刊スポーツの名物編集委員、寺尾博和が幅広く語るコラム「寺尾で候」を随時お届けします。

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超一流の写真家だった巨匠、篠山紀信さんが逝った。目を閉じると、たびたびスタジオで聞いたシャッター音が耳によみがえる。「じゃあ、撮ってみようか」。先生のかけ声で拙者が被写体になったこともあった。ヌード? ではない。

もっとも書棚に置かれた作品で多いのが、山口百恵、松田聖子の写真集だったことも、うっすらと覚えている。だが撮影になると一瞬で雰囲気が変わった。緊張感。アシスタントのスタッフもいて、パシャ! パシャ! とシャッターを押していく。

ある日、超一流の大物が被写体の撮影会に付き添った。お互いが会話を交わしながら撮っていたら、さらっと終わった。篠山さんに「なんか簡単そうに見えたんですが」と聞いてみると「もうね、あうんの呼吸なんだよ」と諭された。

写真にはなにかを訴える力がある。「激写」は流行語になった。複数のカメラを結合して一斉にシャッターを切る「シノラマ」は新たな表現法で技術だった。被写体の人生を物語ったし、時代を投影した。そこに人々は引き込まれた。

ここ数年でインパクトが強かった2019年の「篠山紀信展 写真力」は圧巻だった。それは『The Last Show』と名付けられた。本人が厳選した「昭和」「平成」「令和」を彩ったスターの写真が展示されたのだ。

三島由紀夫、坂東玉三郎、ジョン・レノンとオノ・ヨーコ、片岡仁左衛門、中村勘三郎、樹木希林、宮沢りえ、中森明菜、市川海老蔵、広瀬すず…。長嶋茂雄があったかと思えば、田中角栄、入れ墨の入ったオジサンたちも、幅8メートルもある巨大作品もあった。

その展示会には、篠山さんのメッセージも添えられていたから、改めて紹介したい。

「写真力って何? 写真の力が漲(みなぎ)った写真ね。写された方も、撮った者も、それを見る人々も、あぜんとするようなスゲェー写真。特に、人の顔の写真ってすごいよね。いろいろなことを思い起こすし、あの頃、あの子と付き合ってたとか、でもグラビアの子に随分お世話になったとか(笑)。あの時代貧乏だったけど今より幸せだったかも……とか。時空な虚実を越えて、脳裏に強くインプットするイメージの力が、写真ってなわけだ。そんな写真ってどうやったら撮れるかって? そりゃ大変なんだよ。めったにそんな写真は写らない。だって人知を超えた写真の神様が降りて来なくちゃ、すごい瞬間は立ち現れないんだもの。そのためにはあらゆる努力をする。被写体へのリスペクト、その場の空気を正しく読み、自分の感性を最大限にヒートアップさせる。すると偶(たま)に神様が降臨する。そりゃ、すごいぞ。そこで撮れた一枚は、その人への想いはもちろん、時代や自分史をも思い起こさせる力になってしまうんだから。でもこの展覧会は、50年間にわたって撮ってきた写真の中から、飛び切り写真力のある写真ばかりをえらんでみたものなんだ。よりすぐりの顔、顔、顔…、写真ってスゴイぜ! 8年経った今、読み直してみても全く僕の気持ちは変わりません。バイバイ!」

付き合いの長いある人は「被写体の一番根本的なものを感じとる人だった」と表現した。直感力という心で撮った職人は、その時代を写して、時代を象徴した天才。ほんとにバイバイ! になった。