前回は今年のボクシング界最大ニュースが決まったと書いた。内山が衝撃KOで王座陥落したからだ。これを上回るニュースが飛び込んできた。あのアリが死んだ。東京ドームでのタイソン戦、ラスベガスでの誰だかのヘビー級王座戦の取材時、遠目に見たことはある。ボクシング界最大の人物だったのは間違いない。

 スーパースターはいろいろいるが、スポーツは娯楽性が高いだけに、偉人までとはいかない。カリスマは今やピンからキリまでどこにでもいる。その中でアリは偉人であり、本物のカリスマと言えるだろう。リング内に限ってもその偉大さは大きい。

 スーパースターの登場は競技の発展、時流にも大きな影響を与える。アリといえば、戦後の成長時代にも乗って、今のボクシングの基礎を築いた。革命を起こしたと言ってもいいだろう。

 ボクシングの神髄はヘビー級にある。真っ向勝負で打ち合い、倒し倒されが魅力で、最重量級という象徴だからだ。そこでアリは異色の存在になった。チョウのように舞い、蜂のように刺す。

 フットワークに目でパンチをかわし、カウンターやコンビネーションで相手を仕留めた。打たせずに打つという、ボクシングの理想だった。ミドル級で始め、ライトヘビー級も制し、ローマ五輪はライトヘビー級。徐々に階級を上げていったことが奏功した。

 最近は攻撃型のパッキャオが注目の的だったが、君臨したのは防御型のメイウェザーだった。アリの全盛時は両方の攻防兼備。ボクシングのあり方、勝ち方、教え方、見方まで変えたとも言ってもいい。最強ではなかったが、最高のボクサーだったのではと思う。

 ボクシングと言えば、昔のギャング映画によく出てきた。タバコや葉巻の煙が充満する暗がりの会場や、控室でマフィアが八百長を持ち掛けるシーンは象徴的。そんな怪しげな格闘技の世界をスポーツとして広めた人とも言えるのではないか。

 ビッグマウスは有名で、ホラ吹きクレイとも言われた。今や当たり前になったKO予告に、調印式や計量で相手を挑発し、自らを誇大宣伝した。相手に仕掛ける心理戦の始まりとも言える。急激に発達したテレビをもうまく活用して、興行を盛り上げて広め、ボクシングをメジャースポーツへ押し上げた。人気を高めてファイトマネーの高騰にもつながった。

 今は簡単に当時の試合をネットで見られる。アリのことはさまざまな映画、ドキュメントにもなり、多くの書物にもなった。キンシャサの奇跡をリングサイドで見た日本人は4人だった。生で見たかった。それは無理としても、リアルタイムで見たかった。【河合香】