平成が終わり、令和が始まった。日常に何ら変わりはないが、私は平成が始まる前年の1988年(昭63)入社。平成=社会人暮らし、つまりスポーツ新聞勤務やった。そこで考えてみた。ボクシング限定で。平成は、どんな時代やったんか-。

1994年(平6)12月4日は、日本ボクシング界の歴史的な日になった。WBC世界バンタム級王者薬師寺保栄VS同暫定王者辰吉丈一郎。日本人同士による初の世界王座統一戦が、名古屋市総合体育館レインボーホールで行われ、壮絶な死闘の末、薬師寺の2-0判定勝ちで終わった。テレビ中継は関東39・4%、関西43・8%、東海52・2%。その異常な高視聴率からも世間の盛り上がりぶりがわかるでしょう。

ちょうど現場で走り回った。キャップに「辰ちゃんが勝つから、るみちゃん(現辰吉夫人)をマークして」と試合前に言われ、てっきり辰吉が勝つと思ってたら…薬師寺の勝ちやがな! 「変更や! 薬師寺のフィアンセを頼むわ!」。誰? 急に言われても、顔知らんし。9800人の大観衆をかき分け、見つけて何とか話を聞いた。殺気立つ喧騒(けんそう)の中、真冬やのに汗だくになった。

WBC世界バンタム級統一王座決定戦 薬師寺保栄対辰吉丈一郎 辰吉(左)に右ストレートを浴びせる薬師寺(1994年12月4日撮影)
WBC世界バンタム級統一王座決定戦 薬師寺保栄対辰吉丈一郎 辰吉(左)に右ストレートを浴びせる薬師寺(1994年12月4日撮影)

あれから25年、四半世紀がたった今、ボクシングにあの熱気はあるんか? あると言えば、ある。選手、ジム、応援団は熱い。世界王座を夢見て、究極の体を作って、どつき合う。それは変わらん。でも、ないと言えば、ない。そこが問題やと思う。

世界戦=全国中継という図式が崩壊した。3月に世界最速3階級覇者のWBO世界フライ級王者田中恒成と、元WBA&IBF統一ライトフライ級王者田口良一の世界戦があった。間違いなくおもしろい試合やと想定できたし、実際おもろかった。ところが、テレビは全国中継でも、枠はゴールデンやなく夕方やった。ダブル、トリプルで世界戦を組んだ上に、大みそかとかの特別感がないとあかん-。そやないと数字=視聴率が取れんというんがテレビ局の理屈やし、まあプロ野球のナイター中継でさえ地上派では絶滅寸前やし、仕方ないと言えば仕方ないけど…。興行においてテレビマネーは依然として大きな柱ですからねえ。切ない話です。

9回、田口良一(右)にボディーブローをたたき込むWBO世界フライ級王者・田中恒成(2019年3月16日撮影)
9回、田口良一(右)にボディーブローをたたき込むWBO世界フライ級王者・田中恒成(2019年3月16日撮影)

それだけ世間の目がボクシングに向いてないっちゅうことですが、その原因もまた悩ましい。JBC公認の世界主要団体がWBA、WBCに加え、IBFとWBOを含む4つに増えた。しかもWBAなんか世界王者を1階級でスーパー王者、レギュラー王者を作ったりする。それだけ多く世界戦が組めるかもしれんけど、世界王者の純度が薄まった。ありがたみがない。

世間の側の原因の1つは、エンターテインメントの多様化かな。テレビが地上波だけやなく、衛星放送、専門チャンネルと広がった。インターネットも登場し、その普及にスマートフォン(多機能携帯電話)が拍車をかけた。動画サイトなんてものもできた。趣味の選択肢が増えたら、今まで人気があったものへの興味も薄まりますわな。

元々が一獲千金狙いの世界とはいえ、今のままじゃ夢も見れん。平成はボクシング熱が引いた時代。あの活況を取り戻すには、何をすべきか。令和は平成以上に大変な時代になりそうです。【加藤裕一】

(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「リングにかける男たち」)