大相撲三段目力士の勝武士さんが新型コロナウイルスの影響で亡くなったのは本当に残念で、ショックだった。

その中で大相撲独特の文化である「集団生活」があらためて取りざたされた。関取になれば個室、または別に自宅を持つことができるが、以外の大多数は1カ所で、いわゆる大部屋で生活する。他のスポーツであれば練習、競技で集まり、解散だが、大相撲の世界は1日中をほぼ一年中、同じ空間をともにする。

記者が新弟子だった20数年前、「相撲道を知るにはとにかく入門しろ」の指令を受け、若松部屋(現在の高砂部屋)にお世話になった。当時はまだ若い部屋で関取もいない。元大関朝潮の師匠の下、自分がいち早く出世しようとする活気に満ちていた。そんな世界に素人が恐る恐る入門した。

黒まわしを借りて、稽古に参加させてもらった。最初はさすがに「なんじゃこいつは」という視線を感じたが、股割りでもん絶したあたりからとけ込む空気に変わった。10代の新弟子たちと申し合いを行い、最後はぶつかり稽古。取材で見ていると「簡単に押せそう」となめていたが、ビクとも動かない。しかし、体の使い方を指導されると何とか押せるようになる。「最も実になる」とされる稽古を肌で実感した。

ひと通り稽古を終えて、一緒に風呂に入った時にはもう「仲間」だった。雑談しながら和気あいあい。たった1日だったが、内部を知ることで自分の中でかなり変われた記憶がある。

新型コロナウイルス禍でクラスター化の怖さが言われ、その前は暴力事件の問題もあった。独特の文化である「集団生活」のマイナス面だが、それ以上にプラス面もあるということだ。年齢は関係ない番付社会。刺激し合い、励まし合い、笑い合ってピラミッドの頂上を目指す構図がある。

長年にわたって継がれ、今に生きる文化。その根底が揺らぐ厳しい状況下だが、大相撲の歴史は必ず乗り越えられると信じる。【実藤健一】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「大相撲裏話」)