昭和以降、最年長再入幕の安美錦(39=伊勢ケ浜)が平幕でただ1人、初日から5連勝を飾った。新入幕の大奄美に寄り立てられ、絶体絶命のピンチとなりながらも、すくい投げで逆転勝ちした。39歳での無傷5連勝は昭和以降、最年長記録。横綱日馬富士の暴行騒動で揺れる部屋で、ベテランが気を吐いている。

 俵にかかったのは、アキレス腱(けん)を切っていた左足。上体も起こされていた。まさに絶体絶命。その時だった。安美錦の脚に、今までにない力が宿った。「両脚ともミシミシ言いながら力が入った。稽古で感じたことのない力」。

 耐えた。「我慢だ」と言い聞かせて、上手を引く左は命綱だと離さない。そして、右に回りながら右からすくった。左指のつめは割れ、血がにじんでいた。39歳の体には、まだこんなにも未知なる力が宿っていた。「よく残ったね。頑張りました」と自らをほめた。

 初日からの5連勝は15年春以来、自身3度目。ただ、39歳での5連勝は昭和以降、誰もいない。それは、1人での快進撃ではない。

 福岡・太宰府の宿舎には妻絵莉さんの手作りの食事が届く。「子どもが3人いて大変だから、しなくていいと言っているけど」。バランスを考えられた数種類の食事が今年も3回ほど届いた。冷え込む季節を考えて、そこに体が温まるよう自らしょうがを入れる。「何でもうまいよ。結婚して良かった。今の妻と」。

 日馬富士の暴行騒動が起き、照ノ富士は休場。厳しい状況の部屋で1人、気を吐く。「とにかく目いっぱい、自分のことを考えてやるしかない。必死に」。それが今の自分の役割だと、39歳は知っている。【今村健人】