新入幕の東前頭14枚目翔猿(とびざる、28=追手風)が、106年ぶりの快挙にまた1歩近づいた。三役経験者の竜電を下手投げで破って早くも勝ち越し。2敗を守り、10日目終了時点で新入幕がトップに立つのは、1場所15日制が定着した49年(昭24)以降では07年秋場所の豪栄道以来6人目。1914年夏場所の両国以来、史上2人目の新入幕Vに向けて、新鋭のイケメン小兵が“大混戦場所”を抜け出してみせる。

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端正なマスクを真っ赤にして、ぶん投げた。翔猿は右前みつを取ると、15センチ長身の竜電に頭をつけて隙をうかがった。「胸を合わせたらしんどい。胸を合わせないように、思い切り相撲を取った」。寄り切れないと見るや175センチ、131キロの小柄な体を沈めて、左から下手投げ。「幕内で力が通じる。勝ち越せたのでうれしい」と、手応え十分の8勝目だった。

兄の十両英乃海も幕内経験者という“兄弟幕内”で、猿のような機敏な動きが由来の「とびざる」というしこ名も日に日に存在感が増している。埼玉栄高、日大とアマチュア相撲のエリート街道を歩み、15年初場所に初土俵。十両通過に3年を要しただけに、場所前の新入幕会見では「やっと力士としてのスタート地点に立てた」と話した。待ちこがれた幕内の舞台。「まだまだこれから名前を覚えてもらえるように頑張りたい」と、勝ち越し程度では満足できない。

力士として観客に活力を届ける。今場所から新調した締め込みは、コロナ禍の最前線で奮闘している医療従事者に感謝の気持ちを示して鮮やかな青色にした。「こういうときなので、元気づけていきたい」。

10日目終了時点で新入幕が先頭集団を並走するのは13年ぶり。トップの2敗が5人並ぶ混戦場所だが「そこは全然意識していない。チャレンジャーなので。まだまだ集中して、暴れていきたい」。賜杯争いの緊張感とは無縁の明るい声で、終盤5日間へ気持ちを高めた。【佐藤礼征】

◆記録メモ 10日目終了時点で新入幕のトップは、07年秋場所の豪栄道以来。当時は1敗で横綱白鵬と並び、11日目には白鵬が黒星を喫して単独トップに立った。11日目を終えての新入幕単独トップは史上初だったが、12日目から3連敗を喫して優勝争いから脱落。白鵬が優勝した。新入幕優勝なら、1914年(大3)夏場所での東前頭14枚目の両国以来106年ぶり。両国は初日から7連勝で8日目は相手の寒玉子が休場(不戦勝制度がなく、相手が休めば自分も休場扱い)、9日目以降は2連勝。追いかける横綱太刀山を振り切り、9勝1休で優勝した(10日間制)。