89歳のクリント・イーストウッドが痲薬の運び屋を演じた「運び屋」の記憶も新しい。今度は82歳のロバート・レッドフォードが引退作と銘打って銀行強盗を演じたのが「さらば愛しきアウトロー」(12日公開)だ。

ともに実在の犯罪者がモデルで、常習性はあるが人は傷つけない。往年の名優が行き着く題材ということなのだろうか。

イーストウッドの方は自ら監督したが、レッドフォードは主催しているサンダンス映画祭で頭角を現したデヴィッド・ロウリー監督(38)にメガホンを任せている。

演じるのは16回の脱獄を繰り返した「伝説の銀行強盗」である。映画に登場するのは80年代初頭で、70代に入った男は相変わらず強盗を繰り返している。その手法はポケットに入れた拳銃をチラリと見せるだけ、といたってシンプルなものだが、これがあまりにも鮮やかで、ソフトな口調に銀行の窓口係や支店長は「紳士だった」「礼儀正しかった」とむしろたたえるような証言をする。

歳とともにスローモーになる動きを経験とユーモアにくるんで相手を意のままに操る。シワが目だっても老アウトローの笑顔はチャーミングだ。

ロウリー監督はレッドフォードの引退作にふさわしい70年代の雰囲気を出すためにあえて当時のフィルムを使っている。カメラもこれに合わせ、小型で機動性が高く、画角を広く使える「スーパー16」で撮っている。

これが往年の名作イメージを喚起し、「明日に向かって撃て!」(69年)「ホット・ロック」(72年)「スティング」(73年)…かつてのアウトローたちが次々に頭に浮かぶ。彼らが齢を重ねればこんな風になるのではないか、と劇中の老銀行強盗に像を結ぶ。若手監督のしゃれっ気とこだわりが、年配の映画ファンの心をくすぐる絶妙の味付けになっている。

老強盗を追う刑事に巧者ケイシー・アフレック。時に共犯者となる仲間にダニー・グローバーとトム・ウェイツという個性派が配されている。そして大きな心で主人公を包む恋人役にシシー・スペイセクとこれ以上はないと思われるキャスティングだ。

試写室で配られたアンケートでレッドフォード作品の「マイ・ベスト1」を問われ、バーブラ・ストライサンドと共演した「追憶」(73年)と書いた。「明日に向かって撃て!」の強烈なイメージがあるし、ここまで「アウトロー像」を書いてきて何なのだが、やはりレッドフォードには「永遠の二枚目」の印象が強いのである。【相原斎】

(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画な生活」)