新型コロナウイルスによるパンデミック後最初の大作映画となった「TENET テネット」が、北米で公開されてから1カ月が経過しましたが、米国内での興行収入は5日現在累計4510万ドルと低迷しています。感染が拡大した3月中旬から営業が停止していた映画館も現在は7割ほどが再開していますが、依然としてロサンゼルス(LA)やニューヨーク、サンフランシスコといった大都市では再開のメドが立っておらず、感染リスクを懸念して客足が鈍っていることなども原因とみられています。そんな中、ハリウッドの大手スタジオは今秋に公開を予定していた新作映画を再び年末から来年以降に延期する動きを加速させており、ついにはこの秋最大の目玉だった「007」シリーズ最新作「007 ノー・タイム・トゥ・ダイ」も11月20日の公開を再び断念することが決まりました。来年まで延期されたことで、夏に続いてこの秋も劇場で公開する新作映画がないという危機的状態に直面しています。

新型コロナウイルスの感染拡大影響で閉鎖されたハリウッドのチャイニーズシアター(3月23日、撮影・菅敏)
新型コロナウイルスの感染拡大影響で閉鎖されたハリウッドのチャイニーズシアター(3月23日、撮影・菅敏)

「ムーラン」の劇場公開を断念してディズニー+での配信に切り替えたディズニーは、マーベル映画の新作3本の公開を再び延期することを発表。11月公開予定だったスカーレット・ヨハンソン主演の「ブラック・ウィドウ」は来年5月に、マーベル作品初となるアジア系ヒーローを描く「シャン・チー・アンド・ザ・レジェンド・オブ・ザ・テン・リングズ」は来年7月に、そしてアンジェリーナ・ジョリーも出演する「エターナルズ」に至っては1年後の2021年11月に延期が決まりました。20世紀フォックスもスティーブン・スピルバーグ監督がメガホンを取るリメイク「ウエスト・サイド・ストーリー」を来年12月まで1年間延期し、「ナイル殺人事件」を10月から12月18日に移動させたことで、現時点では11月20日公開のピクサーのアニメ「ソウルフル・ワールド」がかろうじてラインアップに残っているだけの状況です。

ワーナー・ブラザーズもクリスマスに延期していた「ワンダーウーマン1984」を 再び来年夏まで延期することを決めており、現在12月公開を予定している「星の王子ニューヨークへ行く」の続編など数少ない作品も今後の状況次第では延期される可能性もあり、今年後半は世界中からハリウッド映画が消えてしまうかもしれません。「007 ノー・タイム・トゥ・ダイ」と「ワンダーウーマン1984」の公開延期を受け、映画館業界大手シネワールドは英国と米国で全ての劇場を再び一時閉鎖することを発表。全米第2の劇場数を誇るリーガル・シネマズは8日から米国内の536の劇場を閉鎖します。再開時期は明らかにされておらず、話題作がスクリーンに戻ってくるまで営業再開は厳しいと見られています。サマームービーに続いてホリデーシーズンも壊滅的となれば、映画館の存続そのものも危ぶまれることからマーティン・スコセッシ監督やクリント・イーストウッド、ジェームズ・キャメロン監督ら巨匠たちは連名で、「映画は必要不可欠な産業」だとして米議会に支援を求める公開書簡を提出しました。

秋から冬にかけて再び感染が拡大することが懸念される中、LAなど大都市の映画館がホリデーシーズンまでに再開し、感染拡大がある程度抑えられているのかが今後のハリウッド映画の行く末を左右する鍵となりますが、人々が安心して再び映画館に足を運べる日が来ることを願うばかりです。

【千歳香奈子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「ハリウッド直送便」)