劇団「ゴジゲン」を主宰し、映画、ドラマ監督、俳優としても活躍する松居大悟氏(34)が、初の小説「またね家族」(講談社)を出した。小劇団を主宰する青年が、余命宣告を受けた父からの連絡をきっかけに家族を見つめなおす物語。エンターテインメントの意義を問う場面も登場し、新型コロナウイルスの影響を大きく受けたエンタメ界の今と重なる。

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去年の夏、映画撮影の予定が延期になって、スケジュールが半年ほど空いてしまったんです。以前から小説を書いてみませんかと声を掛けてもらっていたり、父の七回忌もあったので、家族について1人で考えて書いてみようと思いました。

今まで、舞台でも映像でも、家族というテーマを避けてきたんです。自分の家族が、世間でいう家族と違う感じがしていたので、「違うよ」と言われるような気がしてしまって。小説なら、状況やせりふ、全部自分で決められますから。

書いてみて思ったのは、楽しい家族なんてなくていい、人の数だけ家族があるということでした。家族についてあきらめがついたような気持ちで、ちょっとさっぱりしました。

小説を読んだ人には「お前の話でしょ」と言われるんですが、主人公の故郷が福岡ということと、劇団をやっているということ、残り時間を告げられた父の存在…ということくらいです。(主人公の)武志は周りに素直に影響を受けて成長をしていきます。応援したくなりますし、あこがれます。自分ができなかったことを武志に投影したようなところはあります。

世の中が大変な状況の中、エンターテインメントの存在意義を登場人物たちが話し合う場面もあります。今もいろいろ考えます。今は辛抱の時だと思いますが、笑ったり泣いたり、よく分からない感情になったり、人間が人間らしくいられる感情に連れていってくれるのがエンターテインメントだと考えています。

これから描くものは変わっていくと思います。殺伐としたものより、楽しめるもの、でしょうか。どんな小さな出来事も、何げない感情もいとおしいですね。今まで避けてきた家族についても、作っていける気がしています。

外出自粛期間中、スマホで映像を撮ったりしていました。それをスマホで見るのが面白かったです。大きなスクリーンに映すより、自分の目線がそのままなわけですから。作品に生かせそうな気もします。(構成・小林千穂)

◆松居大悟(まつい・だいご)1985年(昭60)11月2日、福岡県生まれ。慶大の演劇、映像などの創作サークルで活動。08年、劇団「ゴジゲン」を結成。映画は、蒼井優主演「アズミ・ハルコは行方不明」、池松壮亮主演「君が君で君だ」など監督。ドラマはテレビ東京系「バイプレイヤーズ」シリーズの脚本、演出など。18年の映画「アイスと雨音」が開催中の世界規模のオンライン映画祭出品。5月公開予定だった最新映画「#ハンド全力」は延期となり、公開待機中。

初の小説について語った松居大悟氏
初の小説について語った松居大悟氏