50代後半になっても、攻めの姿勢は崩さない。俳優唐沢寿明(57)。世界的大ヒットドラマ「24」のリメーク作品、テレビ朝日系連続ドラマ「24 JAPAN」(10月9日スタート、金曜午後11時15分)で“日本版ジャック・バウアー”こと獅堂現馬を演じている。還暦も視野に入るが、一線のアクション、変幻自在のトークは常にエネルギーに満ちている。代表作に恵まれた「偶然」から、期待の若手についても語った。

★リメークの違和感心配してない

インタビューは複数社が時間を区切って唐沢に話を聞く「取材日」に行われた。すぐ隣で他媒体の取材を終えると、開口一番「今聞こえてたから、あれで書けるんじゃない?」。唐沢の周りには笑いが絶えない。

人気漫画が原作の映画「20世紀少年」、山崎豊子氏の名作をドラマ化した「白い巨塔」。原作付きの映像化作品やリメークものへの主演例は枚挙にいとまがない。今回の相手は世界的大ヒットドラマだが、表情には余裕が見える。

「プレッシャーっていうより、結構楽しんでやってますよ。素直に見てもらえれば面白いと思います」

ファンから厳しい目で見られるのもリメークの宿命だが、「そりゃたたかれるでしょう」と笑い飛ばす。踏んだ場数は経験値となり、少々の批判では揺らがない。

「自分なりのものにするつもりではいるんだけど、(オリジナル主演の)キーファー・サザーランドさんを想像して見る人には違うかもしれないね。でも、見ているうちに日本版の雰囲気に慣れてくると思う。それがどれくらいの時間がかかるか分からないけど、その辺はあんまり心配してない。ストーリーも同じだし、チームワークや全体のキャラクター設定に不自然さは感じないと思う」

米オリジナル版は01年に放送。03年に日本で人気に火が付き、レンタルビデオ店に行列ができるなど社会現象にもなった。誕生から約20年。既存ファンはもちろん、新しい視聴層にも期待する。

「半分以上は見たことがないんじゃない? そういう人はこの作品から見たら面白いじゃない、こういうストーリーだったんだって。若い世代の子たちにもどんどん見てほしいね」

オリジナルはシーズン8まで制作。気は早いが、日本版のシリーズ化はどうだろう。

「それはないでしょう? だって俺おじいちゃんになっちゃうもん! じっちゃんバウアーになっちゃう。もう限界です(笑い)」

「限界」と冗談めかすが、「この間1人投げた」とアクションシーンを事もなげに振り返る。16歳から21歳まで、特撮などで役者に代わりアクションをこなす「スーツアクター」として下積みを過ごした。

「元々スタントマンみたいなものじゃない? どちらかというと裏方だからさ。その時にいろんなトレーニングをしたことが、なぜか50過ぎてそういう仕事が来始めて。もう10年早くよこせよみたいな感じだったんだけど(笑い)」

★アクションOK「1人投げた」

ぼやきながらも「ちょっとした所作やしぐさに出るから」と、護身術を取り入れたトレーニングで準備を怠らない。16年日本テレビ系「THE LAST COP」、19年同「ボイス 110緊急指令室」などここ数年はアクションが売りの作品に出演。この展開は本人にも想定外だったようだ。

「大河ドラマもやってさ、普通のドラマをやっていくんだろうなと思って、気がついたらこれじゃん? 『8メーターの高さを背中から落ちられますか?』とかいろんなこと言われて。昔やってたからできるけど、そっち系になってくるとは思ってなかったね」

積極的にアクションに取り組む若手も増え、時代の変化を感じている。刺激を受ける後輩を聞くと、「菅田将暉だね」と即答した。共演はないが偶然対面し、唐沢流の“エール”を送ったことがある。

「エレベーターの中で会って、それ以上売れたらつぶすからなって言ったら、下向いてたね。『すいません』って言ってた(笑い)。俺昭和だからさ、どうしてもそうなっちゃう」

会話は「ジョーク」と「まじめ」を行き来しながら、将来有望な若手への期待感をにじませる。

「彼は才能があるよね、俳優としての。コイツすげーなっていう若いヤツが出てくると楽しいじゃない? 捨てたもんじゃないな、いるんだなこういうヤツって。でも彼は器用でいろいろできちゃうから。もっと大事に、自分の何をうまく外に出せばもっと評価されるのかとか、オリジナルのキャラクターが出せるのかを考えて、代表作を逃さないで欲しいね」

唐沢にとっては03年のフジテレビ系ドラマ「白い巨塔」が代表作と言えるだろう。2クールで放送され、最終回の平均視聴率は32・1%(ビデオリサーチ調べ)を記録した。俳優が代表作に出会えるかどうかは「偶然」という。

「俳優を何十年やっていようと、振り返った時に大ヒット作の経験があるとか当たり役があるとかっていうのなんて、1本あればいい方だよ。自分の好きな仕事をやってても、全てにおいて納得のいくものに巡り合える確率なんてほとんどないと思った方がいい。偶然の産物だから」

「-巨塔」のヒットは予想していなかった。「時代が味方した」と話す。

★還暦「ちゃんちゃんこ刑事」?

「俺、絶対外れると思ったの。無理だと思ったの。(共演の)江口洋介と2人飲んだ時、最高視聴率15%いったらもう1回乾杯しようって言ってたくらい。もちろん作品や原作もよかったんだけど、時代が変わったんだと思うんだよね。恋愛ものばっかりやってた時代から、いいかげんもう違うものを見たいっていう時代に移行していたんだと思う。そこにバッチリ合って、ヒットした」

一方、同じ山崎作品で主演した09年の同局系「不毛地帯」は「-巨塔」ほど振るわなかった。デジタル録画機器が広く普及したタイミングでもあり、唐沢は「みんなガンガン録画に走っちゃった。で、数字(視聴率)が下がっちゃった」と話す。

「そういう時代背景ってすごく大事。自分がやりたいことよりも、いろんな背景があって作品が当たったり、『あれ見てました』って言われたりするんじゃないかな」

「運はよかった」と振り返る。

「いろんな人に助けてもらって、いろんな作品にキャスティングさせてもらって。たまたまヒットしたのかもしれないけど、今振り返ればラッキーなこと。俳優なんて、脚本、カメラ、監督がいなきゃできないし、衣装もなきゃダメ。チームワークでやらないと」

若々しいが、今年で57歳。「還暦になったらテレ朝で『ちゃんちゃんこ刑事(デカ)』っていうのをやってもらう」と、またジョークモードの唐沢になった。

「いつも赤いちゃんちゃんこ着て、赤いペンとか赤い消しゴムとか、ポケットに入ってるものが全部赤いものなの。どう? (全身赤い衣装がおなじみの)カズレーザーは第1回のゲストに呼ぶから。タイトルは『赤いわな』ね。アクション? ありますよ!」

きれいにオチもつけた。

「最後は必ずカメラ目線で、ちゃんちゃん! って言って終わるの(笑い)」

【遠藤尚子】

▼「24 JAPAN」で共演する仲間由紀恵(40)

現場での唐沢さんは気さくにお話ししてくださいますし、話すととても面白い方なんですが、撮影中は思考に無駄がない。共に作品を作っているスタッフをとことん信用して任せるところは任せている、そんな印象です。その姿勢がとても誠実で、すてきだなと感じました。私が迷いがある時、唐沢さんに聞いてみたりもしましたが、その時も「監督がOK出してるんだから、そこは大丈夫」と言って、前に進む勇気とやる気をくださいました。共に最後まで頑張ります。

◆唐沢寿明(からさわ・としあき)

1963年(昭38)6月3日、東京都生まれ。87年舞台デビュー。88年NHK連続テレビ小説「純ちゃんの応援歌」に出演。91年「おいしい結婚」で映画デビュー。出演作多数で、最近は18年テレ東系「ハラスメントゲーム」などに主演。NHK朝ドラ「エール」に出演中。妻は女優山口智子(55)。175センチ。血液型A。

◆「24 JAPAN」

日本初の女性総理大臣が誕生するまでの24時間を描く。CTU(テロ対策ユニット)班長・獅堂現馬(唐沢寿明)は総選挙当日、総理候補・朝倉麗(仲間由紀恵)の暗殺計画を阻止する極秘任務に当たる。共演は木村多江、桜田ひよりら。

(2020年9月27日本紙掲載)