NHK大河ドラマ「おんな城主 直虎」最終回で、元服した万千代(菅田将暉)に徳川家康(阿部サダヲ)が送った言葉です。おびただしい命のたすきを託されて生き延びてきた万千代が、どのタイミングで、どんな形で「直政」になるのか。番組ファンの関心事に最終回で応え、これ以上ない晴れ姿を見せてくれました。

 作品を見てきた人なら、「直政」の名前は、直虎の「直」と、小野政次(高橋一生)の「政」を合わせたものだと察しがついていたはず。史実と創作をダイナミックに融合させたこの作品ならではのロマンが、「直政」の名前に詰まっていたんですよね。

 直虎の死去を受け、南渓(小林薫)の願いに家康が応えた形。元服した万千代の烏帽子(えぼし)親になってやり、家臣団を集めた報償の場で「井伊の通り字の『直』と、小野の通り字の『政』をとり、そなたの名とせよ。わしはこれよりない、よい名だと思うぞ」。名前の意味と、家康の思いを一瞬で理解した万千代の大粒の涙が尊く、子役の寺田心くんが演じた虎松時代の悔し涙や、「井伊と小野はふたつでひとつ」と叫んだ政次の名場面などがあれこれ思い出されました。

 家康への感謝と誓いを述べる万千代が「百尺竿頭に一歩を進む 大死一番、絶後再びよみがえる」という禅語を用いたのもハッとしました。これ、生き延びるために直虎が井伊家の計画倒産を決めた30話に出てきた言葉ですよね。万千代は、すべてを捨ててよみがえった井伊だからこそのわが身です、みたいな意味で用いて決意を語りました。元服と大出世の晴れ舞台で、たまたま同じ禅語をチョイスしている万千代にしっかり直虎イズムが継承されていて、主人公の魅力が生き生きと立ち上がる力強い最終回でした。

 これ以外にも、最終回は「囲碁」や「井戸端」などさまざまな直虎要素の伏線がバリバリ回収されていて、考え抜かれた森下佳子氏の脚本にただただ圧倒されるばかり。子供時代が4週にもわたって描かれた作品だけに、直虎の最期も子役たちで着地したのも染みました。懐かしい井戸端に、一心同体だった亀之丞(直親)と鶴丸(政次)が迎えに来たならしょうがないと納得できる臨終で、龍雲丸も含めて男の子たちが勢ぞろい。笛の音で始まった彼らの物語が笛の音で終わるのも美しいラストでした。

 歴史と照らし合わせれば、まだ信長が本能寺で暗殺されたばかり。家康&万千代サイドが抜群に面白くなっていただけに、この作品とのお別れは名残惜しい気もします。森下ワールドで万千代編の第2部も見せてほしいような、このままの余韻で完璧なような。ロス状態のせいか、個性的すぎる「完」に噴いてしまったせいか、まだいろいろ混乱しています。

【梅田恵子】(B面★梅ちゃんねる/ニッカンスポーツ・コム芸能記者コラム)