12日に放送されたNHK大河ドラマ「麒麟がくる」13話「帰蝶のはかりごと」で、帰蝶(川口春奈)が夫、織田信長(染谷将太)に語った言葉です。のるかそるかの夫のピンチに、“美濃のマムシ”こと父、斎藤道三譲りの胆力が覚醒。“ブラック帰蝶”も飛び出すプロデュース力がチャーミングに描かれ、ネットも「帰蝶様かっこいい」「ラスボスの風格」「さすがマムシの娘」と大いに沸きました。

描かれたのは、戦国ハイライトのひとつである、道三と信長の「聖徳寺の会見」の序章。うつけ者丸出しの姿で聖徳寺にやってきた信長が、美しい武家の正装で現れて道三のハートをつかむという有名な演出勝ちは、実は帰蝶のプロデュースだったという新解釈で描かれました。父、道三の性格と戦術を知り尽くす帰蝶のキャラクターを丁寧に描いてきた作品だけに説得力があり、スター性のある夫と敏腕プロデューサーの妻というコンビネーションに、見たことのない物語性があるのです。

織田の隊列に必要な数百の兵を調達するため、百戦錬磨の伊呂波太夫(尾野真千子)と渡り合うくだりは、堂々とした鼻っ柱がベールを脱いだ名場面でした。初対面の太夫を悠然と見下ろし、人を試すように砂金袋をドサッ、ドサッと足元に落として反応を見るドSっぷり。最後の1袋をサーッと降らせて中身が偽物ではないことを見せつけると、「手付けじゃ」。相手に有無を言わせない父譲りの圧がキュートで、どん引く太夫とのコントラストがゾクゾクと展開しました。

「できることはすべてやり、あとはその場の勝負」。実際、できることはすべてやり、夫を送り出した城で1人、お茶を飲んで会見の成功を信じている「帰蝶P」の背中がかっこいいです。「わしのいくさを横取りするつもりか」と笑って受ける信長のせりふも効いていて、状況を楽しんでいるような自信と、帰蝶への信頼が伝わってきます。

若さと強さと気品に加え、マムシの娘の策略センスも開放。時代と人物をダイナミックに描く脚本池端俊策氏の帰蝶像を川口春奈さんが素晴らしいチューニングで見せていて、「完全に帰蝶役をものにしている」「はまり役」という評価の数々も納得です。同じく新しい信長像が話題の染谷将太さんの若々しさともバランスが良く、ひざ枕の仲むつまじい描写も絵になります。

この大河にとって帰蝶は思っていた以上に役割が大きそう。信長の妻として、光秀の本能寺にどうかかわっていくのか、まだまだ先の話ですが、彼女の立ち回りを楽しみたいと思います。

【梅田恵子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能記者コラム「梅ちゃんねる」)