海外市場で出遅れ気味の日本のドラマ制作力を巻き返そうと、NHKが脚本開発に特化したチーム「WDRプロジェクト」を立ち上げ、メンバーの公募がスタートした。最大10人の脚本家がチームで知恵を出し合うハリウッド形式の新たな試みで、「世界を席巻するドラマを作る」と意気込む。米UCLAでその手法を学んだプロジェクト・ディレクター保坂慶太氏(39)に狙いを聞いた。

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保坂慶太氏が演出した大河ドラマ「鎌倉殿の13人」より(C)NHK
保坂慶太氏が演出した大河ドラマ「鎌倉殿の13人」より(C)NHK

-プロジェクトを立ち上げた動機を教えてください。

保坂 今や世界中の優れた新作ドラマが毎日のように届く時代。そこと肩を並べられるコンテンツを作っていかなければならない中、海外のやり方を取り入れた新しい脚本開発に挑戦したい、というのが出発点です。

-保坂さんが米UCLAで学んだシリーズドラマの脚本作りとは。

保坂 海外ではシリーズドラマを制作する際、複数の脚本家が「ライターズルーム」という場に集い、共同執筆することが一般的です。構想段階からメンバーと物語の内容を共有し、アイデアを提供し合う。構成が得意な人もいれば、せりふが得意な人もいて、そういう才能を掛け合わせながら知恵を出し合い、完成度の高い物語を開発していくという手法です。

-日本との違いは。

保坂 日本は何を伝えたいのかという「テーマ」が大事ですが、ハリウッド形式は「どれだけ続きが気になるか」という商業的な仕掛け重視です。冒頭の仕掛けや展開パターンなど「物語のエンジンがどれだけ強力に積めているか」をチームで延々と話している。脚本をプレゼンすると、たいてい「100話目はどうなる」と聞かれます。100話でも持続できるエンジンが、イッキ見視聴にも絶えうる中毒性を生んでいるのだと思います。今回のプロジェクトでは、そこの強化にチャレンジしてみたいのです。

脚本開発チームWDRプロジェクトのロゴ(C)NHK
脚本開発チームWDRプロジェクトのロゴ(C)NHK

-「100話持続できるエンジン」や「中毒性」というのは、90分×16話のような分厚いパッケージで世界的ヒット作を量産する韓国ドラマにも通じるところがありますね。

保坂 ハリウッド的な作り方をしていて、うまくできているなあと思います。向こう(UCLA)でも、脚本コースに日本人は全然いないのに、韓国、中国の留学生はけっこういました。圧倒的に吸収するし、持って帰る量も違う。韓国は「冬のソナタ」あたりから20年かけてここまできた。彼らにできたなら、日本にもできないわけがない。韓国勢の躍進を見ると、言い訳できない状況だと思います。

-韓国はエンタメを国策としてやっているわけで、学ぶ人材のバックアップも含めて日本とは環境が違うかと。

保坂 でも、やられっぱなしは悔しい。それをどれだけの人が思っているのか。世界に通用する人が1人だけいてもダメで、層として分厚くしていく必要がある。夢のある職業にしていかないと、目指す人も限られてしまうという危機感はあります。

-ドラマ枠は急増しているので、脚本家の需要は多いと思うのですが。

保坂 そうなのですが、どうしても実績のある脚本家の方が起用されがちな印象があります。私が携わってきた番組が主に朝ドラや大河ドラマなのでそう思うのかもしれませんが、マンガやお笑いの世界は新しい人が次々と出てくるのに、テレビ業界はなぜそこまで新しい人材が登用されていかないんだろうと。

-確かに、次の7月期の夏ドラマもベテラン勢がズラリという様相です。

保坂 既存の脚本家さんも大切なのですが、違うアプローチで発掘される才能や物語もあるんじゃないかと。M-1グランプリやキングオブコントなど、あの場に選ばれるネタには物語がありますし、みんなすごい作家だと思う。ああいう才能もドラマに転用できたらいいなと思うんです。現状、物語を作れる人はゲーム会社や出版社などが積極的に取りに行っていて、ストーリーテラーがテレビじゃないところに行っちゃってる気がしてならない。

保坂慶太氏が演出した大河ドラマ「鎌倉殿の13人」より(C)NHK
保坂慶太氏が演出した大河ドラマ「鎌倉殿の13人」より(C)NHK

-人材の争奪戦にテレビは負けているのですか。

保坂 ほかの業界は、発掘する時間や育てる労力を惜しんでいない。ゲーム会社は自社で雇ったりしてストーリーテラーの確保に熱心だし、出版社の人も、小説のポータルサイトなどによく目を通して作家志望の人に声を掛けていたりする。マンガなんか、世界で何億冊というレベルの話をしている(笑い)。作品の持ち込み窓口もあるし、オープンなんですよね。じゃあ、新規の才能がテレビドラマの脚本書いたらどこで見てもらえるの、って。脚本コンテストで賞をとるしかないのが現状で、テレビが機会を作れていないと思うんです。

-脚本賞はどうしても総合力重視になりがち。「せりふだけは天才」みたいな人材にも目が配られたら面白そうです。

保坂 得意分野を持ち寄れたら面白いですし、1人で書いていると手詰まりだったことも、違う人のアイデアで乗り越えられることって意外と多い。そうやって、チームで物語の強度を高めていくのがWDRプロジェクトの狙いです。やってみないと分かりませんが、やってみるというのが圧倒的に重要だと思います。

-それだけドラマにとって脚本は重要ということですよね。

保坂 脚本はドラマの根幹。作品作りの最上流にあって、その善しあしが演出やキャストなどすべてに影響していく。「神回」といわれるものは、脚本の時点で神回なんです。それくらい影響力がデカい。どんな人が応募してくれるのか想像もつきませんが、新しい才能や物語に出会えると期待しています。チーム力で世界を席巻するドラマをつくる。ハードル高いですが、それが野望です。

◆WDRプロジェクト(Writer’s Development Room) 募集概要と応募はホームベージから。7月31日締め切り。

◆保坂慶太(ほさか・けいた)07年NHK入局。ディレクターとして大河ドラマ「真田丸」「鎌倉殿の13人」、連続テレビ小説「まんぷく」、よるドラ「だから私は推しました」などの演出を担当。19年、UCLAでシリーズドラマの脚本執筆コースを履修・修了。

【梅田恵子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能記者コラム「梅ちゃんねる」)