作家アガサ・クリスティの代表作「オリエント急行殺人事件」は、74年にシドニー・ルメット監督が映画化した作品があり、これが決定版という印象があった。

 ローレン・バコール、ション・コネリー、イングリット・バークマン…という文字通りのオールスター・キャスト。当時、高校生で原作も未読だったから、衝撃的な結末には息をのんだ。が、結末があまりにも衝撃的過ぎて、実を言えばこの結末と、アルバート・フィニー演じる名探偵ポアロのとがったヒゲ以外の記憶が、曖昧なのが正直なところだ。

 その「オリエント-」を、一昨年「シンデレラ」をヒットさせたケネス・ブラナーが監督、主演で再映画化した(8日公開)。

 今度は結末を知っての試写となったわけだが、これが予想以上に楽しめた。

 殺される米国人美術商にジョニー・デップがふんするほか、ミッシェル・ファイファー、ペネロペ・クルス、デイジー・リドリー、ウィレム・デフォー…キャストも74年版に遜色ない。

 作品(1934年発表)の時代を感じさせる工夫もほどこされている。光の加減や人物の輪郭が微妙に柔らかいのは、デジタル時代にあえて65ミリフィルムを使ったからで、わざわざそのためにロンドンに専用ラボを作り直したという。

 原作と74年版になかったのが列車外でのアクションシーンだ。こちらもCG処理に逃げることなく、往年の大作映画に倣ってロンドン西部の広大な元国防省戦車実験場に陸橋セットを構築したそうだ。

 豪華キャストが横並びになる「最後の晩餐(ばんさん)」のような構図もあり、ブラナー監督の「これが映画だ」との思いが随所に垣間見える。

 原作、前作を知る人にとっても知らない人にとっても見どころ満載の作品だ。