肺がんで闘病中の大林宣彦監督(79)が16日、都内で新作映画「花筐/HANAGATAMI」の初日舞台あいさつに出席した。昨年7月のクランクイン前日に余命3カ月と宣告されたが、予定通り撮影を終え、この日を迎えた。がんに負けず、今後も映画製作を続けると力強く語った。

 大林監督は、つえをつきながら登壇した。舞台あいさつは、さながら「俳優魂」の伝達式のようだった。登壇者1人1人に感謝と感想を語った。主演の窪塚俊介(36)には、人に年齢を聞かれたら「18歳から80歳と答えなさい」と教えていた。「俳優なのだから、演じられる役の年齢で答えなさいということです」。満島真之介(28)には「シナリオに書かれたことの理解を超え、『なぜここにいるのか』と考えることを身をもって証明してくれた」と感謝した。歯並びを矯正しようとした山崎紘菜(23)には「それがあるから君なんだ。個性とは欠点をチャーミングに見せること。相変わらず磨きのかかった、いい反っ歯だよ」と冗談まじりに励ました。

 「花筐」は、太平洋戦争開戦前夜、少年少女たちの心の揺れ動きを描いた青春群像劇。大林監督にとって77年の監督デビュー前から構想を温め、脚本を執筆した作品の念願の映画化だった。ところが撮影開始を翌日に控えた昨年7月24日、ステージ4の肺がんで、余命3カ月と宣告された。それでも、撮影は予定通りに行い、佐賀・唐津のロケ現場から離れたのは、検査のための3日だけだった。

 この日は30分予定のイベントが、大林監督の独演会となり、50分の長丁場になった。「私の病気のことを心配してくださっていますが、おかげさまで、余命3カ月と言われてから、1年4カ月も過ごしています」と笑顔で語り、「あの戦争で生き延びたから、がんごときじゃ死なねえぞと思いました。あと30年は生き延びて、映画を作り続けたい」と話すと、大きな拍手を送られた。

 妻でプロデューサーの大林恭子さんによると、通院の回数は減っており、既に次回作の脚本も作っているという。「暖かくなったら」と、早ければ来年春ごろから撮影に入ることを想定している。【森本隆】

 ◆大林宣彦(おおばやし・のぶひこ)1938年(昭13)1月9日、広島県生まれ。CMディレクターを経て77年「HOUSE」で商業映画監督デビュー。その後「ねらわれた学園」「転校生」「時をかける少女」「さびしんぼう」などを発表。92年「青春デンデケデケデケ」で日本アカデミー賞優秀監督賞。04年に紫綬褒章、09年に旭日小綬章を受章。