平昌五輪が盛り上がっている中、歌舞伎俳優中村雀右衛門の取材会があった。

 歌舞伎俳優にはアスリートのような側面がある。女形の雀右衛門は「下半身は柔軟に鍛え、上半身には筋肉を付けず、なで肩に」という体を保つようにしているという。五輪を見ていて、何か共通項はあるのかと聞くと「1回勝負で、体を使い切ることでしょうか。一瞬で決める集中力にはすごいものがあると思って見ています。それに、フィギュアスケートなどを見ていますと、形だけではなく全体的な美しさも大事ですので、そういうところは共通しているのかなと思います」と答えてくれた。

 雀右衛門が3月の歌舞伎座で踊る「男女道成寺」はかなり体力を使う。女形は途中、「引き抜き」と呼ばれる衣装の早替わりがあるため、着物を二重で着ている。立役と息の合ったキレと優雅さ、色っぽさが両立していなければならない。大きな舞踊作品を、25日間連続で踊ると、翌月、翌々月まで疲れが残るほどだそうで、「使い物にならないくらいです」と苦笑いしていた。

 体力、気力ともに強くないと舞台はつとまらないのだな、と話を聞いていたが、平昌五輪の話題の続きで、夫人が笑いながら教えてくれた。「小心者なので、ライブで(競技を)見られないんですよ」。雀右衛門も「自分が見ていたせいで転んだらどうしようとドキドキしてしまうんです。フィギュアスケートも結果が出てから見るんです」と苦笑いした。

 ソチ五輪の時、浅田真央さんの競技が行われた日、一門で伊豆に旅行に行っていたそう。全員で1つの部屋に集まって競技を見ようということになったが、雀右衛門は別室に行き、テレビから離れ、一生懸命、見ないようにしていたとか。

 今回、羽生結弦選手の活躍で沸いたフィギュアスケートも生で見られなかったんだろうか。テレビから顔を背けて、ぎゅっと目をつぶる雀右衛門を想像してしまった。