15日(現地時間)に禁錮刑で服役中に亡くなった、米国の世界的な音楽プロデューサーのフィル・スペクター受刑者の死因は、新型コロナウイルスだったと17日、米国の各メディアが相次いで報じた。

ニューヨーク・タイムズ電子版は、スペクター受刑者の娘ニコールさんが、死因は新型コロナウイルスによる合併症で20年12月31日に、殺人罪で服役していた米カリフォルニア州の刑務医療施設から病院に移送され、新春早々、挿管の処置を受けていたと明かした。

またロサンゼルス・タイムスの電子版も、スペクター受刑者に近い情報筋の話として、刑務医療施設で新型コロナウイルスの感染が判明した後、カリフォルニア州内の病院に移送され、亡くなったと報じた。同紙は、正確な死因は発表されていないものの、カリフォルニア州の刑務所は新型コロナウイルスの感染拡大が深刻で、60人の囚人が亡くなっていると報じ、スペクター受刑者が服役していた刑務医療施設でも582人の囚人の陽性が判明し、少なくとも10人が死亡したとした。

スペクター受刑者は、1963年にビルボードチャートで全米2位となった女性グループ、ザ・ロネッツの「ビー・マイ・ベイビー」、63年に同チャートで全米1位を獲得した男性デュオ、ライチャス・ブラザーズの「ふられた気持」など、世界的な大ヒット曲を次々、世に送り出した。多くのスタジオミュージシャンを起用し、長時間をかけて複数のテイクを録音。その音を重ね、エコーをかけて分厚い壁のような音を作る「ウォール・オブ・サウンド」という制作手法を確立。70年にはビートルズのアルバム「レット・イット・ビー」などもプロデュースした。

一方で、奇行を繰り返すことでも知られ、大量の飲酒や薬物の常習で80年代以降は一線を退いていった。多くの銃をコレクションし、その銃で女性を脅迫したとも報じられた。そして2003年には女優のラナ・クラークソンの頭部を拳銃で撃ち、殺害した殺人容疑で逮捕された。ロサンゼルス郡地裁で行われた07年の裁判では、陪審団から評決不能とされ審議が打ち切られたが、09年の2回目の裁判で第2級殺人罪で禁錮19年の判決が言い渡され、カリフォルニア州立刑務所の薬物中毒施設に収監された。その後、14年に刑務所内で倒れ、健康状態の悪化から刑務医療施設に移送されていた。

ザ・ロネッツのメンバーで、68年にスペクター受刑者の2番目の妻となり、74年に離婚したロニー・ベネット(スペクター)は、ロサンゼルス・タイムスの取材に「音楽と私にとって、悲しい日。私たちが一緒に作った魔法の音楽は、私たちの愛にインスパイアーされたもの、私は彼に心と魂をささげた」と語った。一方で「不幸なことに、彼はレコーディングスタジオの外では普通の生活が営めなかった。深い闇に落ちていき、多くの生命が傷ついた」とも語った。

13年3月には、スペクター受刑者の伝記ドラマ「フィル・スペクター」が全米で放送された。同受刑者を米俳優アル・パチーノ、弁護士のリンダ・ケニー・ベイデンを英女優ヘレン・ミレンと、アカデミー賞でオスカーを獲得した俳優が演じたこと、殺人罪の裁判まで描いたことが話題となった。