先日、映画「黒牢城(こくろうじょう)」(黒沢清監督)に出演した菅田将暉(33)を取材する機会に恵まれた。巨匠・黒沢監督が初の時代劇に挑んだ同作への知的な語り口が印象的だった。

菅田は牢屋にとらわれた危険な天才軍師・黒田官兵衛を熱演。役作りについて伺うと、返ってきた答えは時代背景や役柄の人物像を分析するかのようだった。

「軍略家としての心構えで言うと、『何を持って勝ちとするか』だと思うんですよ。現代と違う時代劇の面白さで言うと、『人が死ぬということの距離の近さ』。誰を生かして、どこを斬って、何を目指して…。それぞれの『勝つ』が違う。官兵衛でいうと、自分が属す組織自体が勝つという部分、黒田家自体の存続、自身がのし上がっていく野心がちゃんとある人。いわゆる侍魂みたいな武士感がありつつ、思考を諦めていないタイプだった」

軍師とは何か、戦国時代を生きる人間とはどういう存在か。質問を重ねる度に、単なる役の説明ではなく、その時代を生きた人物の考察を教えてもらっているように感じた。

その知的な語り口は、黒沢監督について語る時にも変わらなかった。

同作は第79回カンヌ国際映画祭カンヌ・プレミア部門に正式出品された。現地で目にしたのは、世界の映画人から自然と敬意を集める黒沢監督の姿だったと話してくれた。

「これだけ愛されて、作品がリスペクトされているのを改めて感じる。やっぱりそれだけの現場なんですよ。日本ではもしかしたら、歩いていても“すごそうな人だな”で終わるかも知れないですけど、映画界ではすごい。僕も現場で監督に指示を出された瞬間に、これを狙っていたのかって思う。監督はニヤニヤしてらっしゃって、僕らに指示を出してくれる。台本じゃ分からないクリエーティブがそこにあるんです」

黒沢監督が深い敬意を集める理由を、自身がその場で感じた体験を交えながら言葉にしていた姿も印象的だった。

同作は時代劇という言葉だけで語り切れない作品だと感じる。

国宝や重要文化財指定の建造物を背景に、時代劇ならではの装いと言葉で物語は進んでいくが、核にあるのは城内で起こる怪事件の真相を追うミステリー。登場人物それぞれの思惑を読み解きながら真相へ迫るおもしろさは、現代の考察ブームにも通じる。

菅田も「黒沢監督がよくインタビューで『60年代の日本の時代劇のように』と話しているんですが、日本映画のスタンダードの美しさをちゃんと現代に、世界中に伝わる作品として撮影する。その上で、ミステリー要素がポップさになる。ミステリーの緊張感があることにより、ユーモアが広がる。結構絶妙なラインですよね」と分析していた。

“時代劇だから”と敬遠するにはもったいない。むしろ、普段は時代劇にあまり触れない方にこそ、知的なエンターテインメントを味わって欲しい。【加藤理沙】