一門の力を結集させる。歌舞伎俳優中村橋之助(27)、中村福之助(25)、中村歌之助(22)の“成駒屋3兄弟”が、運営から出演までをこなす初の自主公演「神谷町小歌舞伎」(30日初日、東京・浅草公会堂)を行う。中村芝翫(57)とタレント三田寛子(57)を両親に持つサラブレッド3人がこのほど取材に応じ、構想から約3年をかけて作り上げた舞台実現への思いを語った。
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温めていた興行がついに実現する。長男の橋之助は「僕は『思い』という言葉が好きなのですが、自分の中にある炎が思いだと思ってここまでやってきて、それは形にしなければ意味がないということに気づきました」と語り「その形というのが今回の自主公演だと思っています。1日1日、現実を感じながらも夢を見ているような思いですが、しっかりと僕の中にある思いを、お客さまに届けたいという気持ちです」と力を込めた。
次男の福之助は先輩役者が自身の名を冠した公演を行っている姿などに刺激を受けていたといい「(坂東)玉三郎のおじさまとか、(市川)猿之助のお兄さんなどの座組に出させていただく機会が多かったのですが、『坂東玉三郎特別舞踏公演』や『猿之助と愉快な仲間たち』などを見て、自分たちで責任を持って動きださなければという気持ちが芽生えてきました。今回は興行として成立させるために、しっかり準備しました。お金の流れや運営とかも含めて、トータルで3日間を通して勉強できれば力になるんじゃないかなと思っています」と意気込んだ。
演目は初心者や若者でも楽しめるよう人気の高い「弁天娘女男白浪」(べんてんむすめめおのしらなみ)と「高坏」(たかつき)を選んだ。「弁天-」で主人公の少年、弁天小僧を演じるのは、幼い頃から人一倍同役が好きだったという3男の歌之助。橋之助は「小さいころ(歌之助は)自分のことを弁天小僧菊之助だと言っていたんですよ。弁天のポスターを家に貼って『俺は弁天小僧だ』と言って」と証言する。稽古では同演目の第一人者で憧れの尾上菊五郎(80)に指導を受けているといい、歌之助は「僕が小さい頃から物心ついて歌舞伎が好きになった時から何度も見て、いつかやりたいと一番好きな演目でした。菊五郎のおじさまも一生をかけて挑んでこられたお役なので、僕にとっても人生をかけてやっていくお役のスタートになればいいなという気持ちです」と思いを語った。
「弁天娘女男白浪」では「知らざあ言って聞かせやしょう-」で始まる名セリフも見どころのひとつ。歌之助は菊五郎とのやりとりを明かし「おじさまにも『言ってて気持ちいいのはわかるけど、自分は気持ち良い言い方も、お客さまにとってはそうでないかもしれないから第一にお客さまが聞いて気持ちいいと思うところを探っていくといいよ』とアドバイスいただきました。『自分も最初はできなかった。人生かけてやって、やっと手に入ってきたことも多いから、これからやっていけばいいんだよ』と温かい言葉もいただいて。今回はできる限り力を尽くしてひとつひとつやっていきたいと思います」と表情を引き締めた。
「高坏」では橋之助がげたを履いたタップダンスにも挑戦する。橋之助は「僕の大好きな(中村)勘九郎のお兄さん、中村屋のお家が代々務められていたお役です。幼いころから勘九郎のお兄さんの次郎冠者に憧れていたので選ばせていただきました」と明かし「勘九郎のお兄さんからは『あまり神経質にならない。やることは多いけど、神経質になってしまうと、このお役のおおらかさが出ない』とアドバイスをいただきました。タップダンスは大道具さんにベニヤ板を切ってもらってその上でずっと練習していますが、自分の思っていた何倍も難しい。だからこそ足が勝手に動くようになるまで頑張っていきたいと思います」と決意を込めた。
兄弟3人で決めた手探りの初公演。両親も陰ながらサポートしており、父芝翫は稽古に毎回顔を出して見守り、母の三田は「できることはなんでもやるから」と主に事務面の作業で支えを受けている。3兄弟が金髪学ラン姿で撮影するなどした歌舞伎らしからぬポスターを発表した際は「配役もとんがっていましたし、ちょっと攻めたことをやったので父にチクリと言われる覚悟をしていた」(橋之助)と振り返るが、返ってきた言葉は正反対。橋之助は「『お父さんはそういう一歩をなかなか踏み出せなかったけれど、3人が仲良く覚悟を決めて同じ方向を向いているのはうれしい。新しいことをやって突破口を見つけたいという3人の気持ちがわかるからこそ、何をやってもいい。怒られることがあったら、お父さんがやっていいと言ったと言いなさい』と言ってくれたんです。頼もしいというか、すごく格好いいなと思いました」と笑顔をみせた。
歌之助も大役に挑む上での父芝翫との会話を明かした。「弁天小僧菊之助は父親もやっている役なのですが、自分が菊五郎のおじさまに憧れてお願いにあがったと話したら『役をやらないと教えてもらえないこともある。できる、できないではなく、菊五郎のおじさまに教えていただいたことを、自分なりにひとつずつ丁寧にやりなさい。お父さんも1月やったけど、できることできないこともたくさんあった。これだけ好きなら一生かけて作っていけばいいんじゃないか』と声をかけられました」。
公演タイトルには成駒屋の本拠地でもある「神谷町」、そして「いつか大歌舞伎に昇格する」という野望を込め、あえて「小歌舞伎」とした。金髪学ラン姿で撮ったポスターの意味は来場客に配られるパンフレットの中で明かされるといい、橋之助は「一門の力をみせたい。僕たち3人だけのエゴの会ではなくて、11人で形にしていくことをこだわってきました。2回、3回と続けていきたいですし、11人の思いをひとつにすること、そして歌舞伎であるということに重きを置いて務めていきたいなと思っています」と話した。
最後に、これからのそれぞれの展望を聞いた。
橋之助 僕は歌舞伎のため、成駒屋のためにということをすごく思っています。生まれて27年間、歌舞伎俳優の家に生まれたことによって助けてきてもらっている部分がたくさんあるなといろんなところで痛感しています。それは僕自身の運、それを最大限に生かさせていただいてきたからこそ、30歳に向けて歌舞伎界や成駒屋に恩返ししたい。育ててきてよかったと思われるように、まさにひとつの駒になれるようになっていきたいです。そして将来的には、線が太い、真ん中にドンといられる、そんな役者を目指して勉強していきたいです。
福之助 僕は高校卒業した次の年から襲名して始まって、最初は右も左もわからずいっぱいいっぱいでした。自分のやっていることへの責任の重さも釣り合ってなくて、正直楽しいと思ってやっている感じではなかったんです。でも3年ぐらい前から猿之助のお兄さんの「スーパー歌舞伎」に出させていただいて、役をやるのがこんなに楽しいんだと気づかされました。今回の自主公演はもちろんですが、これから少しでも自分を見に来てくださるお客さんが多くなる役者になりたいですし「福之助にこの役をやってほしい」と思われるような役者になりたいです。
歌之助 今回の「弁天」を1回で終わらせるのではなく、一生かけて積み上げていきたいです。「弁天と言えば、尾上菊五郎」と言われるように、僕もいつか「中村歌之助と言えば弁天だよね」と言われるようになれればいいなと思っています。この役やらせたいなとか、頼られる存在になっていきたいです。今回の公演も夕飯が食べられる時間に終わりますし、僕は今、大学4年生で、周りには就活で悩んでたりとか、そういう人にも見てもらえたら…
歌之助 どういうこと!?
橋之助 気分転換?(笑い)
歌之助 いや、今は同世代が何をやっているのかわからないという声もあって、そんな時に同世代の活躍が力になることも多いと思うので。(歌舞伎が)面白い、面白くないとかじゃなくて、元気やパワーを若い人に感じてもらえたらいいなと同世代として率直に思います。
橋之助 僕たちは三者三様で、仲も良くて、こんな感じでわちゃわちゃしています。僕がいきすぎたら2人が止めてくれたり、誰かが間違えていたら言ってくれたり、いいパワーバランスを強みにしていきたいと思います。歌舞伎って敷居が高いイメージが先行すると思いますが、僕はそれもひとつの武器であるとも思っていました。今は敷居が高いことがマイナスだなと思っているので、今回の公演では敷居を下げることに集中しました。初めて歌舞伎をご覧になる方には本当にいいチュートリアル公演になると思うので、おすすめだと思います!【松尾幸之介】



