宮沢りえ(50)が4日、韓国で開幕した釜山映画祭に初参加した。コンペティション部門の1つ、ジソク部門に主演映画「月」(13日公開)が出品され、オープニングセレモニーでは深紅のドレスを着て、石井裕也監督(40)とともにレッドカーペットを歩いた。
レッドカーペット上では、19年「パラサイト 半地下の家族」(ポン・ジュノ監督)、カンヌ映画祭男優賞を受賞した22年「ベイビー・ブローカー」に主演し、映画祭のナビゲーターを務める韓国の俳優ソン・ガンホ(56)と握手を交わした。また、同じジソク部門に出品された映画「市子」(戸田彬弘監督、12月8日公開)に主演の杉咲花(26)と、自撮りでツーショットを撮る一幕もあった。宮沢と杉咲は、16年の宮沢の主演映画「湯を沸かすほどの熱い愛」(中野量太監督)で母娘を演じた。
宮沢は「まだホテルの周りしか見れておりませんが、空港からホテルに着くまで文化的な伝統ある風景と、近代的なビルが混在していてとてもエネルギッシュな街だと思いました。あと、参鶏湯がおいしかったです」と、初の釜山映画祭への期待をのぞかせた。
「月」は、実際に相模原市で起きた障がい者殺傷事件を題材にした、辺見庸氏の同名小説を映画化。宮沢は、深い森の奥にある重度障がい者施設で新しく働くことになった“書けなくなった”元有名作家の堂島洋子を演じた。宮沢は、「洋子が持っている、さまざまな葛藤から逃げ出さずに、向き合い続けるということにとてもエネルギーが必要でしたし、時々逃げ出したくなることもありましたが、精神力を保つことが一番大変でした」と撮影を振り返った。そして「でも監督のエネルギー、スタッフの誠実さ、そして頼もしいキャストの皆さんに支えられて逃げ出さずに来れたと思います」と語った。
問題作である「月」の映画化に、18年「新聞記者」や21年「ヤクザと家族 The Family」を手がけ、22年6月に72歳で亡くなったスターサンズ代表の河村光庸さんが動いた。河村さんは生前、プロデューサーとして最も挑戦したかった題材として、辺見氏の原作とモチーフにした事件のことを、ことあるごとに口にしていた。その裏には、日本社会に長らく根付く、労働や福祉、生活の根底に流れるシステムへの問いと、複眼的に人間の尊厳を描くことへの挑戦という信念があり「映画にするから。半端なものは作らない。映画にして、世の中に問いたいんだ!」などと力強く誓っていた。
釜山映画祭に10年ぶりに参加した石井監督は「釜山に来る時は、いつも気分が高揚するので、今回も楽しみにしています」と語った。「月」の映画化については「チャレンジングな題材だということは分かっていたので、怖いという思いが先行しましたが、同時に、これはどうしても自分がやらなければならない映画だということは確信しました」と覚悟を持って挑んだことを明かした。
宮沢のほか、オダギリジョー(47)が洋子を「師匠」と呼ぶ夫の昌平役で「湯を沸かすほどの熱い愛」に続き宮沢と夫婦を演じた。洋子の施設の同僚職員で、絵の好きな青年さとくんを磯村勇斗(31)、作家を目指す陽子を二階堂ふみ(29)が演じた。石井監督は「名実ともにトップの俳優の方々が覚悟を持って集まってくださいましたし、その上、この映画をやり遂げるという強い思いと覚悟を持って挑んでくださったので、そういう方々の競演はとても見応えがありましたし、現場では幸せな思いをずっと持っていました」と俳優陣を絶賛した。
◆「月」堂島洋子(宮沢りえ)は、夫の昌平(オダギリジョー)とふたりで、つつましい暮らしを営んでいる中、重度障害者施設で働き始め、光の届かない部屋で、ベッドに横たわったまま動かない、入所者の“きーちゃん”と出会う。生年月日が一緒で、どこか他人に思えず親身になっていくが、職場は決して楽園ではなく、洋子は他の職員による入所者への心ない扱いや暴力を目の当たりにする。そんな世の理不尽に誰よりも憤っているのは、さとくん(磯村勇斗)だ。彼の中で増幅する正義感や使命感が、やがて怒りを伴う形で徐々に頭をもたげ“その日”が、ついにやってくる。
◆釜山映画祭ジソク部門 17年から設定されていたキム・ジソク賞を独立させ、22年に新設された部門で、新人監督を対象としたニューカレンツ部門をのぞけば唯一のコンペティション部門となる。今年は10本の作品の中から最大2作品にキム・ジソク賞が送られる。これまで同賞へ出品された日本映画は、杉咲花(26)が出演した19年「楽園」(瀬々敬久監督)や受賞を果たした18年「羊の木」(吉田大八監督)がある。また尚玄(45)が主演した21年の日本・フィリピン合作映画「義足のボクサ-」(ブリランテ・メンドーサ監督)も受賞。授賞式は10月13日を予定している。



