カンヌ映画祭(フランス)コンペティション部門に出品された、濱口竜介監督(47)の新作映画「急に具合が悪くなる」公開記念舞台あいさつが20日、東京・TOHOシネマズ日比谷で開かれた。

濱口監督は、前日19日に初日を迎えた周囲からの反応を聞かれ「ありがたいもの(反応)をいただくことが多い。さすがに私に直接『何で、あんなものを作ったんだ』と送ってくることはない」と、ジョークを口にした。その上で「自分に結び付けた感想が多い。うちの母が『緊張感が続いて良かったです』のひと言、感想で」と母からの“ひと言感想”を明かし「ありがたいことです」と笑いながら感謝した。

「急に具合が悪くなる」は、がんの転移を経験しながら生き抜く哲学者の宮野真生子さんと、臨床現場の調査を積み重ねた人類学者の磯野真穂さんが交わした20通の往復書簡を元にした、19年の同名共著(晶文社)を原作に、濱口監督が脚本を執筆。パリ郊外の介護施設の施設長マリー=ルー・フォンテーヌと、がんで闘病中の日本人演出家・森崎真理との交流を描く。日本人初の同映画祭女優賞を受賞した主演の岡本多緒(41)が真理、同賞を共同受賞したベルギー出身のフランスの俳優ビルジニー・エフィラ(49)がマリー=ルーを演じた。マリー=ルーと真理を引き合わせる重要な役どころとして、真理が演出する舞台に出演する俳優の清宮吾朗を長塚京三(80)、吾朗の孫の窪寺智樹を黒崎煌代(24)が演じた。

濱口監督は、日本では異例の観客によるスタンディングオベーションで迎えられ「ありがとうございます。本当に、朝早くから起こしいただきまして。9時半から映画を見るということは、私もないので、本当にありがたいこと」と感謝。「余韻がある映画なのではないかと。作った人間が言うのも何ですが(舞台あいさつのトークで)そういうものを壊さないように…意外と楽しかったんですよ」と撮影を振り返った。

トークの中で、岡本が原作について「撮影が終わって初めて読み直しているんです。撮影期間中、何十回も読んでいるんですけど、初めての気付きがあった」と明かす一幕があった。自身が演じた役・真里のモデルとなった宮野さんは、原作の出版2カ月前の19年7月に42歳の若さで亡くなったが「監督が磯野さんみたいなボールを投げてくれたんだなと。気付いていないことを言われ、ハッとするやりとりがあったんだと。ご自覚があるか、分からないんですけど」と問いかけた。

濱口監督は「そう受けとってもらえると、うれしい。(映画の物語は)原作と、ある意味、違う。テキスト通りにやっているところが、見つけられたかな?という感じ(くらい違う)ですが、テキストとして読んで欲しい、と」と説明。その上で「根本的に、いろいろ、むちゃをしている映画なんですけど、原作の力。テキストとは違うんですけど、価値があるものと思い映画にしたかった。価値がある仕事と思ってもらえる根本に原作があった」と原作に感謝した。

◆「急に具合が悪くなる」 フランス、パリ郊外の介護施設「自由の庭」の施設長マリー=ルー・フォンテーヌ(ビルジニー・エフィラ)は、入居者を人間らしくケアすることを理想としつつ、人手不足やスタッフの無理解などに悩まされている。そんな中、日本人の演出家・森崎真理(岡本多緒)に出会い、がん闘病中の真理の描く演劇に勇気をもらう。同じ名前の響きを持つ偶然に導かれて、交流を始めた2人だったが、ある時、真理が「急に具合が悪くなる」。真理の病の進行とともに、2人の関係は劇的に深まり、互いの魂を通わせ合うようになる。