芸能記者という商売は、心持ちを若く保つには最高だ。次から次へと入ってくるニュースに臨機応変に対応する。最近は訃報(ふほう)やら引退のニュースでスクランブル発進することが多いが、これも人の世の定め、老骨にむち打ってパソコンを開いて原稿を書き出す。

気持ちは若く持っていても、戸籍上は立派な前期高齢者&独身。孤独死の不安を少しでも解消するために、東京・渋谷区が実施している認知症講座に行き始めた。

受け付けの1時間近く前に会場に付いて、スマホを見ると「伊東四朗引退発表」のニュースが。お前もジタバタせずに、サッサと身を引けという神の啓示にも思えたが、とりあえず会社に電話を入れて「これから2時間、渋谷の認知症講座を受けるから、原稿についてはその後で」。7月末に伊東さんをインタビューして、8月の頭にインタビュー面「日曜日のヒーロー」に掲載。サラリーマン生活最後の日となった8月31日には、浅草でトークショーを見た。書くことはたくさんあるが、まずは認知症講座に全力投球した。

最初の難関は受け付けから。新日本プロレス時代のオカダ・カズチカのTシャツをテロンと着た姿は、どうしてもナウいヤングにしか見えない。“奇跡の65歳”などと威張っている場合ではない。明らかに冷やかしだ。「94歳の母親の介護に生かそうと思いまして」と真剣な表情で口にしてクリアした。

講座を受けるのは10人ほど。最年少は記者の65歳、一番の先輩はやたら声がでかい85歳のおじいさんだ。「思い浮かぶ野菜、動物」などを書いて行く認知症テストは楽々クリア。スクリーンに映し出される人物の名前を当てるテストも、将棋の藤井聡太名人に戸惑ったくらいでスーパークリア。

しかし、己の年齢を思い知らされたのが体力テスト。握力、椅子の立ち座りは楽勝だったのだが、片足立ち1分間チャレンジ。最初に右足だったのだが、簡単だと思っていたのに15秒もすると大酔っ払いのようにぐらぐらと揺れ出して、ケンケンをしながら何とかクリア。次の左足はコツをつかんで、手を腰の横にたらしてバランスをとったのだが、脳みそグルグル、冷や汗じっとりでなんとか1分間をクリアした。

最後は渋谷区が誇る地元出身のスーパースター井上順さん(79)が出演するダイヤモンド体操をして身体スッキリ、頭スッキリ。翌日はなんともなかったが、翌々日に筋肉痛が表れて、衰えた肉体を実感した。

講座を終えた後は、デスクに電話しては発注を受けて「伊東四朗引退発表 まだまだ、ひと言『ニン!』で大爆笑 あの世の仲間はもう少し待たせておけ」という原稿を書いた。あの世の仲間のことは面白おかしく書いたのだが、読み返しておとなしい表現に改めた。年を取って弱気に、いや今さらながら良識というものが芽生えだしたようだ。

今週初めには脚本家の倉本先生の追悼原稿も書いた。サラリーマン最後の日に、放送作家の高田文夫センセイから「古いことは君にしか書けないものがあるから頑張れ」とかけていただいた言葉をかみしめている日々だ。【小谷野俊哉】