沖縄戦の悲劇を描いた映画「ひめゆりの塔」などで知られる女優津島恵子(つしま・けいこ)さん(本名森直子=もり・なおこ)が1日午前10時20分、胃がんのため東京都中央区の病院で死去した。86歳。長崎県生まれ。葬儀・告別式は近親者で行った。喪主は夫森伊千雄(もり・いちお)氏。

 伊千雄氏によると、津島さんは5年ほど前から認知症の症状が出て、2年前からは胃がんで入退院を繰り返していた。最期は伊千雄氏、津島さんの姉、姉の娘の3人がみとった。長男は米国におり、死去の知らせを聞いて帰国した。生前、津島さんが「苦しまずにいきたい」と話していた通り、穏やかで眠るようだったという。近親者だけでの葬儀は、津島さんの遺志だった。

 最後の仕事は02年、NHK連続ドラマ小説「さくら」だった。映画としては、同年に公開された大林宣彦監督の「なごり雪」になった。

 津島さんは、松竹の「大船調」メロドラマで活躍し、年を重ねるにつれ自然なかたちで、上品な母親役などを演じた。実生活でも「無理せず自然体に」が口ぐせだった。70歳を過ぎても週2回はテニスをするなど、活動的だった。63歳の時には、当時74歳の下條正巳さんとのキスシーンに挑むなど話題になった。

 小さいころから舞踊を習い、松竹の大船撮影所でダンス教師をしていたところ、吉村公三郎監督にスカウトされた。47年、吉村監督の「安城家の舞踏会」でデビューし、松竹のトップ女優として活躍した。芸名は出身地の長崎・対馬にちなんで付けられた。

 小津安二郎監督の「お茶漬の味」(52年)などで注目を集め、今井正監督の「ひめゆりの塔」(53年)で演じた、ひめゆり学徒隊を率いる教師役は高く評価された。黒沢明監督「七人の侍」(54年)では、男装の村娘役を演じるなど、日本映画界の巨匠から愛された。

 57年、東宝副社長を務めた森岩雄氏の長男で、当時TBSディレクターだった伊千雄氏と結婚し、男児をもうけた。